「泣きたいなら泣けばいいじゃん」

俺の我慢していた心をへし折ったのはほかの誰でもないその美少女、萌希だった。

初めて会ったのは俺が幼稚園生の時。


ピンポーンというインターホンの音の後、ガチャっという音とともに扉の前に彼女は現れた。

「隣に引っ越してきた風和里です。もしよかったらなんですけどお近づきのしるしに。」

そういって母に菓子折りを渡す女性の後ろからひょこっと小さな人影が出てきた。

その瞬間俺は瞬きもせずに静止する、息をのむ。

その少女はまさに純情可憐そのもので、ふわふわの茶髪に大きな目、整った鼻に薄い唇。
透き通った透明感のあるきれいな肌は、この先も容姿が崩れることのないことを暗示している。
神が作った顔とはまさに彼女のことだろう。
まさに天使のようなその外見にはきっと誰もが見惚れるはずだ。

「こんにちは。お名前は?」

そして、それは俺の母も例外ではなかったようだ。
母はしゃがみ、少女に視線を合わせてそう尋ねる。

「こんにちは!もえぎのなまえはふわりもえぎっていうの。」

明るい声が自宅の玄関に響き渡った。
想像とは異なる性格に戸惑いながらも俺も挨拶をする。

「こんにちは、うかいしなとです。もえぎちゃんとおなじ4さいです。
 ならいごとはピアノとサッカーです。よろしくおねがいします。」

「もえぎ、べつにしなとにあいさつしてない。
 おねえさんにあいさつした。」

と、もえぎは母を指さす。

驚いた顔をしたもえぎの母はなだめるように”しなとくんとも仲良くしなさい”という。
もえぎは”はーい”と元気良く手を挙げて返事をした。
俺は彼女に無視されたも同然なのに、それすらかわいいと思ってしまうほどの愛嬌が彼女にはあった。

「俺は気にしてませんので。」

と歳不相応であろう対応をとると、
もえぎの母は目を見開きながら”もえぎがごめんね、ありがとう”と微笑む。

いつのまにか”そういえばー”と母が別の話題をはじめ今まであったことなど何もなかったかのように時間が過ぎる。
その後もえぎ達は少し立ち話をして家を後にした。