あの夏、君と最初で最後の恋をした

颯太が事故にあった、
そう聞いた瞬間から、私の世界は色を失くした。

あの日、中学2年の一学期最後の日。

明日から夏休みだって友達とはしゃぎながら放課後寄り道して帰った。

帰り道、隣の颯太の家はまだ明かりも付いていなかった。
颯太は部活で帰りが遅くなるって言ってたし、颯太の両親は共働きだしまだ誰も帰っていないのだろう。

明日からの夏休み、颯太とも一緒に過ごす事が多くなる。
颯太の両親は忙しいから、私がママの田舎へ遊びに行く時に颯太も一緒にいくのは毎年恒例だ。

今年も花火をしよう、
蛍も見にいこう、
田舎の空は星が凄く綺麗で、
物知りの颯太は星を指差しながら星座を教えてくれる。

そんな風に颯太と過ごす時間が、
私は大好き、だった。


帰ってリビングのソファーでゴロゴロしている時、
家の電話が鳴り響いた。

夕食の準備に忙しいママに代わって私が電話に出る。

「もしもし?」

「友花ちゃん!?
友花ちゃん!!
あのね、
颯太が……、
颯太が……!」

電話口から聞こえたのは、颯太の母親の悲痛な声だった。

「おばさん?
どうしたの?」

ただ事じゃない事が起こっているのは分かった。
颯太の母親は普段、穏やかだけど冷静で、
仕事の出来るバリバリのキャリアウーマンでかっこよくて、
取り乱したり声を荒げたりする事は一切なかったから。


「友花ちゃん……、
颯太が……」

そう言って言葉が止まり、颯太の母親は嗚咽しながら泣き出した。

……何が、あったの?
颯太が、
どうしたの……?

恐らくこの時の私はまだ何も分からない状況ながら顔には不安がはっきりと現れていたのだろう。

夕食を作っていたママが手を止めて私が震える手で持っていた受話器を受け取った。

「もしもし?
紗英ちゃん?
どうしたの?」

私に代わって話すママは最初は冷静にしていたけれど、
話している内にサッと顔色が変わった。

「すぐにいくわ。
大丈夫よ、大丈夫、大丈夫……。
待ってて!」

そう言い聞かせる様に言って電話を切ると、エプロンを脱ぎ捨てた。

「ママ……、
颯太、どうしたの……?」

ざわざわとする胸を必死で抑えつける。

ママは真っ青な顔のまま、
私に言った、

「……颯太君が事故にあって今手術中よ」

「え……?」

「すぐに支度して。
病院にいくわよ」

そう言って私の肩を支えるママ。
その支えがなかったら、
私はきっと崩れ落ちていた。