あの夏、君と最初で最後の恋をした

「そりゃあ最初は辛くて悲しくて、どうしようもなかったわ」

いきなり立ち入った事を聞いたにも関わらず、そう言って変わらない穏やかな笑顔を見せてくれた。

「病気だったし覚悟はしてたんだけどね。
お葬式やらバタバタした日々が過ぎて、いざひとりでこの家で過ごすと、凄く静かで広くてね。
ああ、あの人は本当にいなくなってしまったんだ、
とうとう私はひとりになってしまったって、寂しくて辛くて悲しくて、毎日泣いていたわ」

少し悲しそうに、
だけどやっぱり穏やかな笑顔のままでそう話して写真を手に取る。

「もう身体中の水分がなくなるんじゃないかと思うくらい泣いて泣いて、ひとりが寂しくて怖くて、もう早くあの人のところへいきたいって思ってた」  

……同じだ。 
颯太がいなくなって、
当たり前に隣にいた颯太がいなくて、
寂しくて悲しくて、辛くてどうしようもなくて、
毎日泣いていた私と、 同じ。

「……そんなにも悲しくて辛くて絶えられない毎日だったのに、どうして今は笑えるようになったんですか?」

今、私はどんな顔をしているのだろうか。

不思議そう?
それとも、
救いを求めるように、縋るような表情?

それは、女の人の表情が教えてくれた。

私を見て少し驚いたような表情をした後に、
ふっと優しく柔らかく微笑んでくれたから。  

「だって、あの人と過ごした時は消えないもの」

「過ごした、時……?」

「ええ。
長い時間を一緒に過ごしたわ。
楽しいだけじゃなかった、苦しくて辛い事もあった。
だけど、それを上回るくらいの幸せをあの人は私に遺してくれたの」

本当に幸せそうに微笑む顔から、
この人がどれだけ旦那さんを愛していたか、
旦那さんがこの人をどれだけ愛していたか、
そして2人が長い時間をどれだけ幸せに過ごしてきたか、
痛いくらいに伝わってきた。

「私をいつも笑顔にしてくれたわ。
あの人、私が笑っていると本当に嬉しそうに笑うのよ。
だから散々泣いた後に思ったの、
今の私を見たら、あの人はきっと悲しい顔をするに違いないって。
私の笑顔が好きなあの人のためにも私は笑顔でいられるように楽しく生きなきゃって。
だって、私もあの人には笑っていてほしいもの」

……ああ、凄いな。
離れていても、
もうこの世で会う事は叶わなくても、
この人達はお互いを大事に想ってる。
お互いの幸せを想ってる。

この人が今笑顔でいられるのは、
旦那さんのおかげだけど、
旦那さんのためでもあるんだ。

素直に素敵だと思った。

「あら、ごめんなさいね、こんな話楽しくないわよね?」

少し恥ずかしそうにそう言って謝るこの人が、凄く強い人だと思った。

だけど、私はやっぱりそんな風には思えない。


「……いえ、素敵なお話ありがとうございます。
長居してしまってすみません。
そろそろ買い物に戻りますね」

「あ、そうよね、買い物にいくところだったわよね。 
本当にごめんなさいね、助けてもらった上に引き止めてしまって……」

「いえ、私がお話を聞きたかったので」

「あ、お名前、確か友花ちゃんだったわよね?」

「はい」 

「素敵なお名前ね」

「ありがとうございます。
あの、今さらで申し訳ないのですが、
お名前教えて頂けますか?
何てお呼びしていいのか分からなくて……」

「あら本当ね、私は美也子というの。
好きに呼んでね」

「美也子さんですね」

「ふふ、嬉しいわ。
今日は本当にありがとうね。
暑いから気をつけてね」

「はい、ありがとうございます」


挨拶をして家を出た途端に眩しい太陽が容赦なく照りつける。

日傘を差し買い物へ向かう間ずっと美也子さんの話を思い出していた。


そして、
美也子さんとの出会いは、
私を変えていく事になる。