あの夏、君と最初で最後の恋をした

身支度を終えてリビングに入ると途端にコーヒーの香ばしい匂いが鼻に抜ける。

「おはよう、友花」

笑顔でそう言って私の朝食をテーブルに運ぶ母親。

「おはよう、友花。
今日も早起きだな」

読んでいた新聞から顔を上げ、母親と同じ人当たりの良い穏やかな笑顔を向ける父親。

「おはよう」

そうひと言呟いて椅子に座り、
ママが用意してくれた朝食を口に運ぶ。

味がしない。
まるで砂を齧っているみたいだ。

パパとママは明るく話をしてくれるけれど、
私はそんなふたりに相槌を打つのが精一杯だ。
きっと顔は笑えてない。

味のしない朝食を何とか流し込み、洗面所へと向かう。

鏡には相変わらず無表情の私の顔が写っている。

「……酷い顔」

無表情で隈が酷くて、この世の終わりみたいな顔した最低な顔。

『笑ってる友花が1番可愛い』

……そう言ってくれた颯太がいないから、
だから、
私は笑えないんだよ。