あの夏、君と最初で最後の恋をした

散々海で泳いで遊んで、
夕方家に帰る頃には心地良い疲れに満たされる。

夕陽を眺めながら手を繋ぎ家まで歩く。

「疲れたねー」

「そうだね、今日のご飯はどうしようか?」

「うーん、何か簡単に出来る物!」

「あはは、疲れたもんね。
じゃあ今日は野菜たっぷりのスープとパスタにしようか」

「え?大変じゃない?」

「パスタソースはレトルトだし、スープは野菜切ったら後は煮込むだけだから2人でやればそんなに大変じゃないよ」

「そっか!
じゃ、帰ってもうひと頑張りだね」


他愛もない事を話すこんな時間が嬉しくて愛しい。

どうか、どうか、
こんな時間がずっとずっと続きますように。
そう祈らずにはいられない。

チラリと颯太を見ると、
夕陽が颯太の顔を朱く染めていた。

……神様、
私から颯太を奪わないで。

こうして颯太と一緒にいられるだけでいいの。

他愛もない話をして、
手を繋いで一緒に帰る。

それだけで私はこんなにも幸せに満たされる。

颯太の手を少し力を込めて握ると、颯太も同じ様に少し力を込めて握り返してくれる。

「綺麗な夕陽だね」

「うん……」

朱く染まる颯太の顔が何だか切なくて、
颯太の手の暖かさが切なくて、
私は込み上げてくる涙を必死に堪えてそう答えるのが精一杯だった。