あの夏、君と最初で最後の恋をした

「海だー!」

容赦なく照りつける太陽を一身に浴びながらそう叫ぶ私を、颯太が苦笑しながらもやっぱり優しく笑って見てくれる。

「泳ぐ前にちゃんと身体ほぐすんだよ?
日焼け止めは塗ったよね?」

「ばっちり!
ベタベタになる位塗ったから!」

家から歩いて10分程のこの場所はあまり人が来ないからある意味プライベートビーチのような場所で、
昔から私と颯太はここで思う存分に泳いだり遊んでた。

「準備体操終わり!
泳ごう、颯太!」

颯太の手を引き海へと走る。

「ひゃー!
冷たーい!」

足を入れると冷たくて心地良い。
そのまま腰位の深さまで入っていく。

「友花は本当に海が好きだよね」

「うん!
私、前世人魚だったかも」

「あはは!」

「笑わないでよー!」

「ごめんごめん、
でも本当にそうかもね。
友花が泳いでる姿、綺麗だし」

「え……」

思いもしなかった颯太の言葉に顔が熱くなるのが分かった。

「僕は昔からあまり運動は得意じゃないけど、友花は得意でしょ?
友花が泳ぐ姿も走る姿も、いつも綺麗だなって思ってた」

真っ直ぐに私を見てそう言ってくれる颯太。
恥ずかしけれど嬉しくて。

「高校に上がったら、陸上部に入るの考えてみたらどうかな?
きっと楽しいよ」

「……颯太、いつもそう言ってたよね」

私達が通う中高一貫校はどちらかと言うと体育会系の部活はあまり栄えていない。
学校も勉強に力を入れているし、私はギリギリで合格したのもあって中学生の間は勉強を頑張る事にした。

だけど颯太はその事を残念がっていた。
友花は運動が好きなんだから、好きな事を頑張ればいい、
勉強ならいくらでも教えるからって。

「僕は友花が泳いでる姿も、走ってる姿も好きだからね」

相変わらず優しい笑顔でそう言ってくれる颯太。

「私も颯太が絵を描いている姿、好きだよ」

「友花は美術部に入り浸っていたもんね」

「でも颯太見ながらちゃんと勉強してたもん」

「そうだね、友花はやらなきゃいけない事をちゃんとするからね」

やらなきゃいけない事、
……出来てないよ、
私、そんなちゃんと出来てない。

颯太がいなくなったあの日から、
私は抜け殻みたいにただ生きているだけだったから。

だけど、私は今笑ってる。
笑い方なんて忘れた、
そう思っていたのに。

隣に颯太がいてくれるだけで、
私はこんなにも笑える。

「じゃあ、今はちゃーんと遊ばないとね!」

そう言って颯太に水を思いっきりかける。

「ほらほら!
やり返してこないともっとかけちゃうからねー!」

「あはは!
本当に友花は昔から変わらないね」

笑って颯太が思いっきり水をかけてくる。
負けじとやり返す。
思いっきり笑いながら。


大丈夫、
私、笑える。

まだ私は笑える。

パパ、ママ、紬ちゃん。
私、ちゃんと笑えてるよ。
もう二度と笑えないって思ってたのに、
颯太が隣にいてくれるだけで私は
こんなにも楽しくて、嬉しくて、幸せで、
こんなにも笑えるんだ。




ねぇ、颯太。

颯太と笑い合ったこの時を
私は一生忘れないよ。