あの夏、君と最初で最後の恋をした

やり残した事、
そう、颯太は言った。

……冷静に考えたらやり残した事があるのなんて当たり前だ。
だって、颯太は事故で亡くなった。
誰も予想していなかった事だ。

まだ14歳だったんだ、
やりたい事たくさんあって当たり前だ。

「……やり残した事って、なに?」

口を出た言葉は震えていた。

だって、やりたい事全部しちゃったら、
颯太は、
また私の前からいなくなっちゃうかも知れない。


……嫌だ、
そんなの絶対に嫌……!

そのまま黙ってしまった私に、颯太は少し困ったように笑って私の頬を優しく包む。

「たくさんあるんだ。
だから、友花にも手伝ってほしいんだ」

「私に……?」

「うん。
ねえ友花、
夏休み、いつも友花のお母さんの実家に一緒にいってたよね?」

「うん、今年もいこうかなってさっきママとも話してて……」

「僕も一緒にいくよ」

「え……?」

一緒に?
もちろん、嬉しい。
もう、一緒にいくのは叶わないと思っていたから。

でも、どうやって?
それに、パパやママ、紬ちゃんにどう説明したらいいの?

頭の中をぐるぐると回る考えに颯太は気づいていたんだろう。

優しく笑ってまだ混乱もある私にゆっくりと説明してくれた。


颯太の姿は今は私にしか見えないらしい。
生前、自分が過ごしていた場所ではその場にいるたったひとりにしか自分の姿を表せないそうだ。

そんな大切なひとりが私だという事が嬉しい。

だけど、その場所から遠く離れた場所だとまわりの人にも颯太の姿は見えるようになる。

生きている人間と変わらないように。

だから、四国にあるママの実家なら颯太は私と一緒にやり残した事が出来る。

「でも、紬ちゃんに何て言ったら……」

今年はパパが仕事で忙しいから私と紬ちゃんの2人でいく事になった。
紬ちゃんがこっちに戻ってから一緒にいくようにしてるけれど、
四国にいったら紬ちゃんにも颯太の姿が見える。

紬ちゃんなら颯太の姿が見えても、理由を話したら見守ってくれそうだけど……。

「紬さんがこっちに戻ってくるのは少し先だよね?」

「うん、そうだけど……」

「だったら、紬さんが戻る前に一足先にいこう。
そしたら2人で一緒に過ごせるよ」

2人で一緒に……。

もう二度と叶わないと思っていた事が叶っていく。

急に目の前が色づき出した。
眩しい程に明るく。


「うん!
2人でたくさん過ごそうね!」


帰ってきた、
颯太が。

帰ってきた、
私の日常が。

「楽しみ!
颯太、早く計画立てよっ!」


いつものように、颯太専用の椅子に颯太を座らせてはしゃぎながら手帳を広げる。



ねえ颯太、
この時の私はまたくる颯太との別れなんて
ちっとも考えていなかった。

ただただ、隣に颯太がいてくれる事が嬉しくて嬉しくて。

だから、気づかなかった。

颯太が時折悲しそうに、辛そうに私を見ていた事に。


ごめんね、颯太。