あの夏、君と最初で最後の恋をした

お風呂に入って髪を乾かす事もせずに、そのまま部屋に戻りベッドに座る。

そのまま部屋を見渡すと目に入るたくさんの写真立て。
机やチェストの上に並ぶ写真立てには颯太と一緒に笑う私が収められている。

写真を撮るのが好きなパパは、私達が幼い頃からたくさん写真を撮ってくれた。

颯太の部屋にもたくさんの写真が飾ってあった。

……今でも、颯太の部屋はあの日のままだ。

何ひとつ変わっていない。

綺麗好きな颯太らしい、シンプルだけど整理整頓された部屋。

颯太の部屋で颯太が勉強したり本を読んだり、
絵を描いているのを見るのが好きだった。

昔から絵が得意な颯太は中学に入学して美術部に入った。

颯太の描く絵は空だったり花だったり、自然が多かった。

人物を描いたりはしないの?

なんて聞いた事があった。

いつか、描ける時がきたら描くよ、

そう、少し困ったように笑って言っていた。

描いたら1番に見せてね、

そう言った私に笑って

いいよ、

って、言ったのに。

「……ウソつき」

まだ、描いてないじゃない。

まだ、見てないよ。

ねえ颯太。

ずっと一緒にいてくれるって言ったじゃん。

私をひとりにしないって、
言ったじゃん。

なのにどうして?
どうして今颯太は私の隣にいないの?

ねえ、隣にいてよ。

明日から夏休みだよ?
いつもみたいに夏休みの計画立てようよ。

いつまでもはしゃぐ私に困ったように笑ってよ。

髪も乾かさずにいたらいつも乾かしてくれたじゃん。

風邪ひくよ、

って、優しく乾かしてくれたじゃん。

ねえ颯太。

寂しいよ、

颯太がいない事が
寂しくて寂しくて、
悲しくて悲しくて、

もうどうしていいか分からないの。

辛いよ、悲しいよ。
苦しいよ、寂しいよ。

颯太がいないと私、ダメなの。

颯太がいないと意味がないの。


颯太がいなくなったあの日から、
もうどれだけ泣いたか分からない。

毎日毎日、泣いている。

朝起きた時にはもう、涙が流れている。


ねえ颯太、
颯太、颯太……。


「そばにいてよ、颯太……」

そう口からこぼれた時には涙が流れていた。

いつもの事だ。

毎日、颯太を思って泣いている。

颯太がいた時は、
私の涙はいつだって颯太が拭ってくれた。

なのに今は颯太は私の涙を拭ってくれない。

次から次へと流れて止まらない涙は床に落ちていくだけ。



「泣かないで、友花」


不意に、静かな空間に優しく、柔らかく響いた声。


その声は、今私が1番強く求めているものだった。



だけど、
……そんな訳ない、か。

だって颯太はもう……

あり得ない現象についに幻聴まで聴こえたのかと思い、下を向いたまま涙を拭おうとした瞬間、頬に暖かい物が触れた。

その瞬間、心臓がドクンと大きく音をたてた。

……違う、よ、
だって、あり得ない。

だって、
だって、

颯太は……。

でも、この暖かさ、

私、知ってる。

この暖かさは、

私の涙を拭うのは……。


震えながら、俯いていた頭をゆっくりと上げる。

「久しぶりだね、友花」

……ああ、やっぱり颯太だ。

ついには幻覚まで見え出したのかな。

それでもいい。

幻覚でもいい。

だって、今私の目の前には

会いたくて会いたくてたまらなかった颯太がいるんだから。

「颯太!!」

たまらず目の前の颯太に抱きつく。

颯太の存在を確かめるように。

そんな私を颯太は優しく抱きしめてくれる。

信じられない事が起こっているのは分かってる。

ついに頭がおかしくなったのかも知れない。


それでも、
この暖かさは、
颯太だ。

私の大好きな、

颯太なんだ。