成瀬くん、嫌いです

 「すんませ〜ん」

 「はいはい。じゃあ、成瀬くんも基礎やっといてね」

 「了解っすー」


 ⋯⋯私達1年生は、とりあえず今は基礎しかしない。
 基礎が固まってきたら、曲へ入る。

 まあ、ほとんどの人が中学も吹部だったから、基礎だけっていうのは物足りなさを感じているのが現状なんだけど。
 だから、みんな勝手に曲練している。部長も、顧問も黙認してるし。


 「日佳ちゃーん、ちょっとこっち来てくれる?」

 「はーい!」


 ユーフォ(ユーフォニアムの略)のパーリーに呼ばれた。⋯⋯なんだろう?


 「ここのソリの練習したいから、ユーフォの子達私は呼ぶね。
 日佳ちゃんはボーン(トロンボーンの略)の子達お願い」

 「わかりました」


 ユーフォとボーンは音域が同じだ。だから、結構同じソリがあったりする。


「ボーン1年来て! ここのソリ、セクションするって」


 バラバラと、だけどきちんと集まってくる。
 ⋯⋯まだ、仕切る私への嫌悪は、無さそう。だけど⋯⋯私は、それでも、人前に立つことへの恐怖が、消えない。
 嫌悪の、軽蔑の、あの瞳が⋯⋯どうしても忘れられない。