成瀬くん、嫌いです

 ⋯⋯どうして、私が謝っているんだろう。

 連絡、さっきだけど、来る前にしたのに。
 確認しなかったそちらの落ち度では無いだろうか。
 そもそも、頼んで来たのが⋯⋯悪いはず。


 「じゃあ基礎やっといて」

 「はい」


 モヤモヤとした気持ちを抱えながら、
 私は楽器をケースから取り出し、マウスピースのみで音を出し始めた。

 ⋯⋯うーん、ちょっと間が空いてたからか、少し下手になってる。


 別に部活に本気な訳ではない。
 ここは弱小校でも強豪校でもない、思い出用にコンクールに出ているかのような、そんな学校だし。

 でも、本気な人もいるわけだ。
 私の楽器⋯⋯トロンボーンのパーリー(パートリーダーの略)とか、さっき叱ってきた部長とかが、その筆頭。


 「あー、先輩すんませーん、遅れました〜」


 ヘラヘラとした声が音楽室に、響く。


 「成瀬くんも連絡してないのに遅刻?」


 全く〜、と言いながら、私とは違う対応。
 ⋯⋯はあ、意味がわからない。