君が帰るところが私って言ったから、私も帰るところは君

君が帰るところが私って言ったから、私も帰るところは君
 
 春奈は中野の夏美のマンションに駆け付けた。インターホンを押す。返事はない。もう一度押す。返事はない。セミがうるさくて、苛立ちが増す。

「夏美! 夏美!」と呼んだ。返事がない。部屋に入り込んだ。

「えっ鍵は? いや、どうでもいい」と春奈は思った。

 エアコンは入っているがムッとする異臭。

「いやだ! いやだ!」春奈の口から気持ちがこぼれでる。

 狭い部屋に物が散乱している。

 夏美が部屋の隅に両手をくの字に曲げて俯けに倒れてる。

「夏美!」駆け寄って夏美の顔を覗き込んだ。

 夏美が目を覚ました。

「夏美、生きてるの?」

 春奈が大きな声で言う。

「えっ、春奈。春奈がいる。……会えて、会えて嬉しい」

 夏美の声はかすれてる。そして、少し咳込んだ。

「大丈夫なん? 全然連絡せんと何してんの! 死んでるかと思った」

「ある意味死んでる。ここ三日ほど熱が高くて、解熱剤飲んで寝てた」

 夏美は少し朦朧としている感じだった。

「連絡ないから大阪から来たんやで」

「ごめん。でも風邪か、疲れか、最悪コロナかな」

「えっ、コロナやったら……、いややな」

「ごめん、言うたけど、ちゃうと思う。普段からマスクしてるし、周りにかかった人いないから」

 起き上がった夏美のTシャツの左側が下がって、肩のあざが見えてる。

「シートベルトのあざ、まだ治ってないんや」

「そやねん。まだもう少しかかるんちゃう」

「私は、あざないで」

 春奈はロングボブの髪を押さえながら、白いワンピースの襟を引っ張って、右肩を見せた。

「ホンマやきれいやな」

 夏美は何気なく言った。

「治り悪いの、今の生活のせいもあるんちゃう?」と春奈が聞く。

「正社員の仕事と声優の学校掛け持ちは、無理かもわからん。まだ四月半やのにヘロヘロや」

「夏美の会社、ブラックなん?」

「ノルマあるからきつい。声優の学校休んだりしてる」

「仕事変えた方がいいんちゃう。それとも大阪帰って来る?」

「確かにしんどいかも。もう一日休んだら、お盆やし帰ってみるわ」

「そうしぃ、ホンマやったら看病せなあかんけど、用があってそんなにいられへんね。大阪帰ってくるんやったら、明後日、小学校の向かいの丘で話しょ」