「ディディエ、何を慌てているの?」
ディディエは血相を変えて部屋に飛び込んできた。
うるさい音に眉を寄せながらジャシンスはカップを傾けた。
「今すぐに説明してくれっ!」
「このケーキ、美味しいわよ。あなたもどう?」
お茶に誘ってみるものの反応が悪い。
黙って答えを待っているディディエに伝える。
「わたくしに反抗してきたんだもの。仕方ないじゃない?」
当然のように言ったが、ディディエの表情は厳しいままだ。
「──この状況で誰が貴族たちをまとめると思っているんだッ!」
「……!」
「いい加減にしろよ……!」
手のひらを握り込みながら、怒りに震える彼を見てジャシンスも焦りを感じていた。
父に怒られたこともなく、こうして他人から怒りを向けられたこともない。
(わ、わたくしを睨んだの!? なんで生意気な男なのかしら)
彼の腰にある剣がカチャリと揺れた。
それに周りにいる人たちも何故かジャシンスを睨みつけている。
最近、以前にも増して城での居心地が悪くなっているような気がした。



