「メイジー様、そろそろ戻りましょう」

「……っ!」


メイジーは大きく肩を跳ねさせた。
ベルーガにもう一度名前を呼ばれてゆっくりと顔を上げる。
彼は笑みを浮かべているが、怒りを孕んでいるいるように見える。

彼はメイジーに言いたいことがあるのだろう。
笑みを浮かべつつも口端がピクリと動く。
しかしガブリエーレのこともあり言葉を飲み込んでいるのだろう。

メイジーは立ち上がってスカートについた砂を払う。


「ベルーガさん、言いたいことがあるなら言ってくれませんか?」

「…………え?」

「ずっとその視線を向けられるのは疲れます。皇帝陛下には黙ってますから」


ベルーガとメイジーの間に風が吹いている。
今、子どもたちは木に巻き付いているツタを取りに行っていた。
今しかベルーガと二人きりになる機会もないだろう。

彼から表情がスッと消えていく。
手のひらをギュッと握ったベルーガはこちらを静かに睨みつけている。


「正直、あなたのことが気に入りません」


メイジーは納得したように頷いていた。

(……でしょうね)

ベルーガはガブリエーレの指示でここにいるが、不本意なのだろう。
帝国でメイジーに好意的なのは侍女長のエレナくらいだろうか。
ベルーガもメイジーの存在が面白くないはずだ。