さかなの眼

真奈の頭をよしよししながら
「心配かけたね。大丈夫よ」と笑顔で返す。

まだまだやつれたのぞみの顔を見て
「全然まだじゃん」と
真奈は再び抱きついた。

あまりの力に45歳児の身体から
「うっ」と音が漏れた

「まーーーなーーー!」
康子は呆れて再び注意するが
真奈は聞いていない。

親子2人はのぞみを挟んでいるが
会話が成立していない。
いつもなら、のぞみが機能して
2人の仲を取り持っているが
今はそれも叶わない。
「本当にもう」と康子はため息が出た。
康子はハッと顔をあげて真奈に言った。

「真奈、あんた。
のぞみについて滋賀に行ってきなさい。
のぞみと旅行よ。旅行!
どうせ夏休みの宿題もやってないし
部活もないんでしょ?」

康子に発する「あんた」「どうせ」「宿題やってない」に
イライラして康子を睨もうと思ったが
のぞみとの旅行の提案は充分に魅力的だったから
真奈はイライラする言葉は無かったことにした。

「行きたい!行きたい!」
真奈はのぞみに抱きつきながら飛び跳ねている。

のぞみのことも心配だが、
母公認で旅行に出かけられる
母から離れられることに目を輝かせ
二つ返事で了承した。


後方から真奈に飛び付かれ
前方では康子が
手を合わせてお願いのポーズでかなに迫っている。

2人に挟まれて断る理由も見つからず
むしろ滋賀行きに了承して貰えるのならと。

「…わかった」

「やったー!」とのぞみの返答に食い気味で
康子と真奈が両手をあげてガッツポーズをした。