さかなの眼

「大地ーー!」

同じクラスで隣の席の
河合大地を呼ぶ声が聞こえた
それと同時に全身に強い衝撃を受けた。

のぞみが目を開けると
追い被さる河合君の顔がドアップで見えた。
焼けた肌に形の良い坊主頭
よく見るとまつ毛が長い
野球部のユニホームに
のぞみの顔の横には
グローブをはめた手があった


「だいじょーぶ!」
一瞬目があったが河合君は
起き上がり振り返って手を振って答えた。
そばに転がる野球ボールを拾い、
遠くの部員に投げた。
ボールは大きく弧を描いて
野球部のミットに吸い込まれた。

どうやら、私はボールを追いかけてきた
河合君にぶつかって倒れた様だ。
書いていた途中のキャンパスもイーゼルも
私と同じ目線の先に倒れていて
桜の花びらの上で無惨にもうつ伏せになっていた。

のぞみはヨロヨロと起き上がると
背中や肘、身体中が痛かった。
それよりも一緒に倒れた
キャンパスが気になった。


さっき塗った部分に土がついてないかと
のぞみはキャンパスを持ち上げた。

後頭部を不意にゴツい大きな手が
のぞみのボブの頭を撫でた。

振り向くと中腰になった河合君が
私の頭を高速で少しぶっきらぼうに撫でている。

同級生の男の子とは思えない
大きな手で頭を包み込まれて
驚くほどに安心感が襲った。

「髪に芝がいっぱい」

河合君の顔が近くて見れなくて俯いた
顔がどんどん暑くなった。

「…大丈夫」
慌てて立ち上がって河合くんの手から離れた。
スカートに着いた土を
はたくふりをして赤い顔を誤魔化した。

河合君のゴツゴツとした手の感触が
いつまでものぞみの頭の上に残って
胸の鼓動を加速させた。