土曜日の午後、奈緒子は陽平と一緒にテニスコートの観客席に座っていた。隼人のテニスサークルが主催する親善試合を見るためだ。陽平と一緒とはいえ、大学生たちに混じって観戦するのは少し気恥ずかしい。
「母さん、本当に来たんだな。」陽平が隣で呟いた。
「だって、榎本君がわざわざ誘ってくれたんでしょ?せっかくだから見ていこうと思って。」奈緒子は微笑みながら答えたが、内心では少しだけ浮ついた気持ちがあった。あのときの隼人の真剣な表情が思い出される。
試合は複数のペアやシングルスで進行し、最後の男子シングルスに隼人が登場する頃には、日差しもやや傾き始めていた。観客席がざわめき、奈緒子も自然と身を乗り出す。
隼人の相手は、見るからに鍛えられた選手で、コートに立つだけで威圧感を放っていた。しかし、隼人も負けてはいない。彼の真剣な眼差しは、いつもの陽気な彼とは全く違う印象を与える。
試合が始まると、コートには激しいラリーが展開された。スピード感あるサーブと精密なストロークが行き交い、観客席からは歓声と拍手が絶えなかった。
(榎本君、こんなにすごい選手だったのね…!)奈緒子は心の中で驚きつつ、試合に釘付けになった。
セットカウント1-1で迎えた最終セットは、まさに一進一退の攻防だった。隼人のプレーには、全力を出し切ろうとする気迫が感じられ、奈緒子は思わず拳を握りしめていた。
そして、最後のポイント。隼人の強烈なスマッシュが相手コートに突き刺さり、試合が決まった。観客席から大きな拍手が沸き起こる中、奈緒子も陽平も立ち上がって拍手を送った。
試合後、汗だくの隼人がタオルで顔を拭きながら、奈緒子たちの方に向かってきた。顔には安堵と達成感が混じった笑顔が浮かんでいる。
「榎本君、お疲れ様!すごくいい試合だったわね。」奈緒子は拍手をしながら言葉をかけた。
「ありがとうございます。」隼人は奈緒子の目をまっすぐに見つめながら答えた。そして、少し言葉を詰まらせた後、はっきりとした声で言った。
「奈緒子さんが応援してくれて、本当に嬉しかったです。」
その言葉に奈緒子は一瞬驚き、次に隣の陽平の方を伺った。陽平は微妙な表情を浮かべていたが、何も言わなかった。
「そんな…私なんてただ見ていただけよ。でも、素晴らしい試合だったわ。誇りに思うべきね。」奈奈緒子は軽く笑って返すが、胸の奥で微かにざわめく感情を抑えきれない。
隼人は一呼吸置いて、少しだけ緊張した様子で口を開いた。
「あの…実は試合中の写真を撮ってもらったんですけど、奈緒子さんにもお送りしたくて。もしよかったら、連絡先を教えていただけませんか?」
その言葉に、奈緒子は少し驚いた。
「私に写真を?」
「はい。今日の応援がすごく力になったので、そのお礼も兼ねて。」隼人の表情は真剣そのものだった。
奈緒子は一瞬ためらったが、隼人の気持ちを無下にするのも気が引けた。「…いいわよ。」スマートフォンを取り出し、彼と連絡先を交換する。
「ありがとうございます。」隼人は嬉しそうに笑い、その笑顔に奈緒子はどこか落ち着かない気持ちを覚える。
「母さん、榎本…なんか気合い入ってたよな。」
「そうかしら?若いから、一生懸命なのよ。」奈緒子はさらりと答えたが、陽平は言葉を続けた。
「いや、そういうんじゃなくてさ…なんか、母さんの方に気合い入ってたっていうか。」
奈緒子は少し間を置いてから笑い、「何を言ってるのよ。そんなことないでしょ。」と流した。だが、陽平の言葉が妙に引っかかる。
陽平は肩をすくめて歩き出したが、その横顔には何か思案げな表情が浮かんでいた。
奈緒子が帰宅して一息ついた頃、スマートフォンが軽く振動した。画面には隼人からのメッセージが表示されている。
「今日は本当にありがとうございました。写真をお送りします。」
メッセージには、試合中の写真が数枚添付されていた。その中には、勝利の瞬間に隼人が満面の笑みを浮かべている写真もあった。
さらに、メッセージが続く。
「奈緒子さんが応援してくれたおかげで、最後まで全力を出せました。本当に感謝しています。」
奈緒子はその言葉に思わず画面を見つめたまま固まった。
(こんなに素直に気持ちを伝えられるなんて…若さってすごいわね。)
少し迷いながらも、奈緒子は短く返事を打つ。
「本当に頑張っていたから、応援しがいがあったわ。素晴らしい試合だったもの。」
すぐに返信が来る。
「ありがとうございます!また次の試合もぜひ来てください!」
「母さん、本当に来たんだな。」陽平が隣で呟いた。
「だって、榎本君がわざわざ誘ってくれたんでしょ?せっかくだから見ていこうと思って。」奈緒子は微笑みながら答えたが、内心では少しだけ浮ついた気持ちがあった。あのときの隼人の真剣な表情が思い出される。
試合は複数のペアやシングルスで進行し、最後の男子シングルスに隼人が登場する頃には、日差しもやや傾き始めていた。観客席がざわめき、奈緒子も自然と身を乗り出す。
隼人の相手は、見るからに鍛えられた選手で、コートに立つだけで威圧感を放っていた。しかし、隼人も負けてはいない。彼の真剣な眼差しは、いつもの陽気な彼とは全く違う印象を与える。
試合が始まると、コートには激しいラリーが展開された。スピード感あるサーブと精密なストロークが行き交い、観客席からは歓声と拍手が絶えなかった。
(榎本君、こんなにすごい選手だったのね…!)奈緒子は心の中で驚きつつ、試合に釘付けになった。
セットカウント1-1で迎えた最終セットは、まさに一進一退の攻防だった。隼人のプレーには、全力を出し切ろうとする気迫が感じられ、奈緒子は思わず拳を握りしめていた。
そして、最後のポイント。隼人の強烈なスマッシュが相手コートに突き刺さり、試合が決まった。観客席から大きな拍手が沸き起こる中、奈緒子も陽平も立ち上がって拍手を送った。
試合後、汗だくの隼人がタオルで顔を拭きながら、奈緒子たちの方に向かってきた。顔には安堵と達成感が混じった笑顔が浮かんでいる。
「榎本君、お疲れ様!すごくいい試合だったわね。」奈緒子は拍手をしながら言葉をかけた。
「ありがとうございます。」隼人は奈緒子の目をまっすぐに見つめながら答えた。そして、少し言葉を詰まらせた後、はっきりとした声で言った。
「奈緒子さんが応援してくれて、本当に嬉しかったです。」
その言葉に奈緒子は一瞬驚き、次に隣の陽平の方を伺った。陽平は微妙な表情を浮かべていたが、何も言わなかった。
「そんな…私なんてただ見ていただけよ。でも、素晴らしい試合だったわ。誇りに思うべきね。」奈奈緒子は軽く笑って返すが、胸の奥で微かにざわめく感情を抑えきれない。
隼人は一呼吸置いて、少しだけ緊張した様子で口を開いた。
「あの…実は試合中の写真を撮ってもらったんですけど、奈緒子さんにもお送りしたくて。もしよかったら、連絡先を教えていただけませんか?」
その言葉に、奈緒子は少し驚いた。
「私に写真を?」
「はい。今日の応援がすごく力になったので、そのお礼も兼ねて。」隼人の表情は真剣そのものだった。
奈緒子は一瞬ためらったが、隼人の気持ちを無下にするのも気が引けた。「…いいわよ。」スマートフォンを取り出し、彼と連絡先を交換する。
「ありがとうございます。」隼人は嬉しそうに笑い、その笑顔に奈緒子はどこか落ち着かない気持ちを覚える。
「母さん、榎本…なんか気合い入ってたよな。」
「そうかしら?若いから、一生懸命なのよ。」奈緒子はさらりと答えたが、陽平は言葉を続けた。
「いや、そういうんじゃなくてさ…なんか、母さんの方に気合い入ってたっていうか。」
奈緒子は少し間を置いてから笑い、「何を言ってるのよ。そんなことないでしょ。」と流した。だが、陽平の言葉が妙に引っかかる。
陽平は肩をすくめて歩き出したが、その横顔には何か思案げな表情が浮かんでいた。
奈緒子が帰宅して一息ついた頃、スマートフォンが軽く振動した。画面には隼人からのメッセージが表示されている。
「今日は本当にありがとうございました。写真をお送りします。」
メッセージには、試合中の写真が数枚添付されていた。その中には、勝利の瞬間に隼人が満面の笑みを浮かべている写真もあった。
さらに、メッセージが続く。
「奈緒子さんが応援してくれたおかげで、最後まで全力を出せました。本当に感謝しています。」
奈緒子はその言葉に思わず画面を見つめたまま固まった。
(こんなに素直に気持ちを伝えられるなんて…若さってすごいわね。)
少し迷いながらも、奈緒子は短く返事を打つ。
「本当に頑張っていたから、応援しがいがあったわ。素晴らしい試合だったもの。」
すぐに返信が来る。
「ありがとうございます!また次の試合もぜひ来てください!」



