恋するシングルマザーは忙しい!

土曜日の午後、奈緒子はダイニングで本を読んでいた。窓から差し込む日差しが穏やかで、リビングには静かな時間が流れている。

玄関のインターホンが鳴り、陽平が部屋から出てきて玄関を開けた。
「隼人?また来たのかよ。」陽平は驚いたように声を上げた。
「いや、急に悪い。今度の課題で相談したいことがあるって言ってたろ。早く済ませた方がいいと思ってね。」隼人はあくまで「課題を早く済ます。」という口実を作り、爽やかな笑顔を見せた。
奈緒子はリビングから顔を出して状況を確認した。
「榎本君、いらっしゃい。」彼女は軽く微笑みながら声をかけた。
「すみません、突然で。」隼人は少し緊張しながら頭を下げた。

陽平が奥の部屋で資料を探している間、隼人はリビングのダイニングテーブルに座った。奈緒子が紅茶を淹れながら話しかける。
「陽平の課題の相談ね。榎本君、本当に面倒見がいいのね。」
「いや、陽平にはいつも助けられてますし。僕も少しは役に立ちたくて。」隼人は笑いながら答えたが、内心では、緊張で胸が高鳴っていた。

紅茶を差し出しながら、奈緒子が隼人に微笑む。
「若い人たちは大変ね。課題にテストに、それに部活もあるんでしょう?」
「はい。でも、テニスは楽しいから続けられてます。」隼人は一瞬目を伏せた後、思い切って顔を上げた。
「実は…今度、試合があるんです。」
「そうなの?すごいじゃない。」奈緒子は興味深そうに隼人を見つめた。
「もし、お時間があれば…観に来てくれませんか?」隼人は軽く笑いながら尋ねたが、その瞳には真剣な光が宿っていた。

奈緒子は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔を返した。
「私が観に行ってもいいの?」
「もちろんです!僕、家族とか知り合いが来てくれるといつも力が出るんです。だから奈緒子さんにも…。」隼人は言葉を詰まらせつつも、一生懸命伝えようとした。

奈緒子は少し考え込みながら紅茶を一口飲んだ。
「じゃあ、その試合の日程を教えてくれる?陽平と一緒に試合を観に行くのも悪くないわね。」
隼人は胸の奥で安堵しつつ、心の中でガッツポーズをした。
「ありがとうございます!詳細、後でお伝えします。」

そのタイミングで陽平が部屋から戻り、手にしたノートを振りながら声をかけた。
「お待たせ。さ、課題始めるぞ。」
「よし、やろう。」隼人は平静を装いつつ、再び奈緒子に視線を向けた。
奈緒子はそんな二人を見て、微笑みながら静かにリビングを出た。
「若いっていいわね。」彼女の呟きは、小さなため息に混じって消えていった。