恋するシングルマザーは忙しい!

午前の診療が終わり、奈緒子はスタッフルームで雄二と向かい合って昼食をとっていた。持参したお弁当のふたを開け、彩り豊かな料理を少しずつ口に運ぶ。雄二は相変わらずコンビニのサンドイッチだ。
「都築君、相変わらず簡単な食事ね。」奈緒子は少し笑いながら声をかけた。
「料理が苦手なもので…。でも奈緒子さんのお弁当、本当に美味しそうですね。」雄二が少し照れくさそうに言うのを聞き、奈緒子は軽く肩をすくめた。

そのとき、ドアが軽快な音を立てて開き、春川瞳が入ってきた。白衣を羽織ったままの瞳は、椅子を引いて奈緒子たちの隣に腰を下ろす。
「はぁ、全くいい男がいないわ。」瞳はため息混じりに言う。奈緒子と雄二が顔を見合わせたが、瞳は気にする様子もなく話を続ける。
「最近は良さそうな人を見つけても、いざ話してみたらどこか残念な感じなのよ。奈緒子さん、どう思う?」
「え、私ですか?」奈緒子は突然の質問に驚き、箸を持つ手を止めた。
「そうよ。」瞳は身を乗り出し、真剣な顔で奈緒子を見つめる。
「これまで勝手に紹介してきたけど、もしかして奈緒子さんの好みを全然分かってなかったのかもって思ってね。一体、どんな人がタイプなの?」
奈緒子は困ったように笑い、軽く首を振った。
「春川先生、そんなこと急に聞かれても答えられませんよ。」
「えー、でも聞きたいわよ。優しい人?それとも仕事ができる人?あ、もしかして年下でもいいとか?」瞳はまるで探偵のように矢継ぎ早に質問を繰り出してくる。
奈緒子はどう答えたものかと考えあぐねていると、雄二が口を開いた。
「春川先生、そんなに急かさないでくださいよ。昼休みにゆっくりしたいときもあるんですから。」
瞳は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに軽く笑った。「まあ、都築君にそう言われると仕方ないわね。でも、また今度ちゃんと聞かせてよ、奈緒子さん。」

瞳が立ち上がり、軽やかにスタッフルームを出て行くのを見送りながら、奈緒子は肩の力を抜いた。
「助かったわ、都築君。」
「いえいえ。春川先生の勢いには僕もちょっとびっくりしました。」雄二は微笑みながら自分のサンドイッチを一口食べた。
奈緒子はその微笑みを見て、自分も小さく笑った。
「本当に、春川先生って情熱的よね。ありがたいんだけど…少し押しが強いのよ。」
「まあ、奈緒子さんのことを気にしてくれてるんだと思いますよ。でも…気が向いたら、僕にも少しだけ好みを教えてくださいね。」
雄二の言葉に奈緒子は一瞬驚き、顔を上げた。雄二はどこか照れたような笑顔を浮かべながら、すぐに視線をそらした。

奈緒子は「あら、どうして?」と軽く問いかける。
「いや、何となくです。」雄二は答えるだけ答えると、空のサンドイッチ袋をきれいにたたみ始めた。
奈緒子は微笑みながらも、その言葉が心の片隅に引っかかるのを感じた。