名もなき星が瞬く

「それ……どうして……」

「床に落ちてた。さっきの数学の時間に机を動かしてたから、たぶんそのときに落ちたんだと思う」

「中身、読んだ……?」

「うん、ごめん。勝手に見ちゃ悪いと思ったんだけどさ」

瀬戸くんの言葉を聞いて、一気に血の気が引いていく。
吐きそうなほどにお腹の底が冷たくなって、私は慌てて両手で口を押さえた。

どうしよう。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
よりにもよってクラスの中心にいる瀬戸くんに、本当の私を知られてしまった……!

「あのさ――」

「言わないでっ!」

思わず口から出たのは悲鳴のような声だった。
自分で出したとは思えないくらいの大きな声に、瀬戸くんも、そして私自身も驚いてしまう。

「このノートに書いてあること、誰にも言わないで。お願い……」

「あー、うん。別に最初から言いふらすつもりなんかなかったけど」

気まずそうに瀬戸くんが笑う。
そうだ、彼だって落とし物でなければ、こんな呪いのようなノートなど読みたくはなかっただろう。
あまりの申し訳なさに瀬戸くんの目を見ていられず、私は首が取れそうになるほどに俯いた。

「あはは……引くよね、承認欲求が強すぎて。誰にも言えなかったけど、私ってそういう人間なの」

なんでも持っている瀬戸くんの前で、改めて自分の醜さを認める。
ああ、これ以上ないくらいにみじめな気分だ。
いっそこのまま消えてしまえたらどれほどいいだろう。

「なぁ、未央」

「何……?」

きっと軽蔑されているだろうと思って震えていると、突然瀬戸くんから名前を呼ばれた。
なんだか上を向けと言われているみたいで、身構えながらもおそるおそる顔を上げる。
すると瀬戸くんはなにやら真剣な目をしながら私に近づいた。

「俺と一緒に映画をつくらないか?」

「へ……?」

「未央、小説書いてんだろ? それならストーリーを考えたり、脚本を書いたりもできそうじゃん。俺が監督で、未央が脚本のショートフィルムを撮りたいんだよ」

「な、何を言ってるの? なんで私に脚本なんて……」

「俺らならすっげーもんがつくれそうだと思ったから」

無邪気に提案する瀬戸くんに言葉を失ってしまう。

彼はいったい何を言っているのだろう。
本音ノートを読んだのなら、私に小説を書く才能がないことだって知っているはずだ。
それなのに、どうしてそんな意地悪なことを言うの。

悔しくて悲しくて、手がぶるぶると震え出す。
その手にギュッと力を込めて、私は首を左右に振った。

「……やらない。脚本なんて書けない」

「なんでだよ。未央なら絶対にできるって!」

なんの根拠もない瀬戸くんの言葉に腹が立つ。

私に何もできないことは、私が一番よく知っている。
本当、嫌になるくらいに。

「やめてよ。瀬戸くんと違って、私には才能なんてないんだから!」