名もなき星が瞬く

【またコンテストに落ちた】
【すごく丁寧に書き上げた自信作だったのに】
【こんなに頑張ってるのにどうして報われないんだろう】
【私は本当に何をやってもダメだ】
【もうどうしたらいい?】
【どうすればいい?】

本音ノートを広げて、いつものように暗い気持ちを吐き出していく。
私だって人を羨ましがってばかりで、何もしてこなかったわけではない。
今だってこうして自分が得意かもしれないと思ったことに挑戦しているのに、いつまで経っても報われない。
だったらこれ以上、どうしたらいいの。

「はぁ……」

昨日の夜に見たコンテストの結果に、私は次の日になっても落ち込んでしまっていた。
ふと気づけば暗い気持ちになり、おかげで本音ノートのページが次々と埋まっていく。
雑な字が並んだ汚いノートを見下ろして、ため息も止まらない。

「未央ー? 次移動教室だよ。早く行こ?」

「あっ、うん! 今行く!」

親友の友理(ゆり)ちゃんに声をかけられて、ハッと顔を上げる。
そうだ、次は成績別でクラスが分かれる数学の授業だった。
この教室は上位クラスの生徒が使うから、真ん中のクラスである私は隣の教室に移動しなければならないのだ。

慌てて本音ノートを机の中に突っ込み、数学の教科書を引っ張り出して友理ちゃんの背中を追う。
けれど、そんなふうにバタバタとしまいこんだのがいけなかったのかもしれない。

「ない……」

机の中に押し込んだはずの本音ノートがないことに気づいたのは、すべての授業が終わった放課後のことだった。
教室を移動する前、たしかに机の中に入れたはずなのに、どこを探してもノートが見当たらないのだ。
もしかしたら何かの拍子に机の中から滑り落ちてしまったのかもしれない。
誰もいなくなってしまった教室の中で、私は静かに頭を抱えた。

床にも落ちていないということは、すでに誰かに拾われてしまったのだろうか。
ノートに私の名前は書いていないから、拾った人も誰のものかわからなかったのだろう。
けれどもし、そのせいで中身まで確認されていたとしたらどうしよう。
お姉ちゃんのことだって書いてあるし、中身を読めば私のものだと気づかれる可能性はあるというのに。

嘘、どうしよう、最悪だ。
こんな醜い自分を誰かに知られたら、私はきっと生きていけない。
ああもう、どうして学校にまで持ってきてしまっていたんだろう。
せめて家の中で書くだけにしておけばよかった。

「未央」

「瀬戸くん……?」

今さら意味のない後悔をしていると、ふいに誰もいなかった教室に瀬戸くんが現れた。
何か忘れ物でもしたのだろうか。
けれど瀬戸くんは自分の席ではなく、真っ直ぐに私の方へと向かってくる。
どうしたのだろうかと首を傾げると、彼は背負っていた通学リュックを下ろし、その中を漁り始めた。

「もしかして、これって未央のノート?」

瀬戸くんが取り出したのは私の本音ノートと同じ、青い表紙のリングノートだった。
いろんな人が使っている、ありふれたノート。
けれど表紙の右上についているマーカーの汚れには見覚えがあった。

……間違いない。
あれは私の本音ノートだ。