名もなき星が瞬く

お姉ちゃんは小さなころからフィギュアスケートを習っている。
その実力は、再来年に開催予定である冬季オリンピックの代表候補に名前が挙がるほどだ。
今もリビングのテレビには、お姉ちゃんが海外の大会で金メダルを取ったときの映像が流れている。

「未央も一緒に見る? お姉ちゃんの演技」

「ちょっとやめてよ、お母さん。未央ももう見飽きてるって。お母さんだけだよ? そんなに何回も見てるの」

「いいじゃない。だって何度見ても素敵なんだもの」

「えー? 私はここのルッツの入りとか酷すぎて、もう見てらんないんだけど」

あははっと、お姉ちゃんのカラッとした笑い声が響く。
そんなお姉ちゃんに合わせるように、私も小さく笑った。

同じ両親から生まれたはずなのに、私とお姉ちゃんはまるで似ていない。
冴えない私とは違って、お姉ちゃんは元気で明るく、とても意志の強い人だ。
姉妹だから顔は似ているところもあるけれど、お姉ちゃんの方が私よりもどこか華やかで、スタイルもよく、美人だと思う。

それにお姉ちゃんがすごいところはまだまだある。
お姉ちゃんは朝と、そして学校から帰ってからもスケートリンクで練習をしているのだ。
普通の高校生の日常を送りながら、平日でも3~4時間はフィギュアスケートに時間をかけている。
いくら好きで続けていることだとしても、なかなか勉強と両立してできることではないだろう。
それでもお姉ちゃんは辛そうな顔ひとつ見せず、毎日黙々と努力していた。
お姉ちゃんのそういうところを、私は一番に尊敬している。

そんなすごいお姉ちゃんに私が勝てるところなんて、いくら探したって何ひとつ見つからない。
私のクラスが瀬戸くんを中心に回っているように、この家はきっと、お姉ちゃんを中心に回っているのだ。

「ごめん。今日は宿題がたくさん出たから、早くやらなきゃ」

「そう?」

本当は宿題なんか少ししか出ていない。
けれどこれ以上きらきらしたお姉ちゃんを見ていると、自分があまりにもみじめに思えてしまって、私は嘘を吐いて自分の部屋へ逃げようとした。

「ってか私もそろそろリンクに行かなきゃだし」

「あら、もうそんな時間だったかしら。じゃあ未央、莉央のことを送ってくるわね」

「うん、いってらっしゃい。頑張ってね、お姉ちゃん」

「ありがとー」

慌ただしい様子で、二人が家から出て行く。
それを見計らってから、私はハァとため息を吐いた。
ダイニングのイスに力なく座り、そのままテーブルへと突っ伏す。

お姉ちゃんのことは大好きだ。
尊敬する、自慢のお姉ちゃんだと思っている。
だけどどうしても考えてしまうのだ。

――せめて私がお姉ちゃんの妹ではなかったら。

こんなにも近くに敵わない人がいなければ、他人と自分を比べてばかりいることもなかったかもしれないと。

「最低だ、私……」

我ながらすごく嫌なやつだと思う。
全部全部何も持たない自分のせいなのに、誰かと比べて人を羨ましがってばかりいて、しかもお姉ちゃんの妹でなければと考えてしまうなんて。

朝と同じ黒いもやもやが胸に広がっていくのが分かって、私は急いで通学リュックから本音ノートを取り出した。
こんなときはノートに暗い気持ちをぶつけるしかない。
乱雑な手つきでページをめくり、まっさらな紙に文字を書き殴っていく。