名もなき星が瞬く

「なんか、あっという間だったな」

まるで幸せな夢から覚めてしまったように瞬矢が呟く。

2時間の花火大会が終わると、辺りは再び暗闇と静寂を取り戻していた。
夜目の利かない瞬矢に代わって、私が機材を片付けて帰り支度をしていく。

それにしても、改めてすごい数の機材だ。
これを持って暗闇を歩くのは、きっと瞬矢にとっても負担だろう。
そう思い「帰りは私も運ぶのを手伝うよ」と言うと、瞬矢は少し迷った末に、申し訳なさそうにカメラを差し出した。

「じゃあ、大事なカメラは未央が持ってくれるか?」

「えっ、それだけ?」

「俺のこだわりで大荷物になったのに、さすがに女子に手伝ってもらうわけにはいかないだろ」

「そんなの別にいいのに」

本当はもう少し手伝いたかったけれど、瞬矢は頑なに許してはくれなかった。
しょうがなく彼からカメラだけを受け取り、慎重にストラップを首から下げる。
こうして大切なカメラを預けていることで、少しは安心してもらえるといいのだけれど。

「じゃあ、そろそろ帰ろっか」

「おう」

この丘を下るには、上りで使った急な階段に加え、なだらかな坂道を使うという方法もある。
歩く距離は階段と比べて伸びてしまうけれど、瞬矢の安全を第一に考えて、私たちは坂道をゆっくり下っていくことにした。

「瞬矢。私に掴まって」

「ん。手でもいいか?」

「う、うん。いいよ」

瞬矢からの提案で、私は動揺しつつも彼の右手に触れた。
そのまま瞬矢の右手と私の左手で手を繋ぐ。
冷え性のせいで指先が冷たい私とは違い、瞬矢の手は夏を閉じ込めたかのような熱を持っていて、その熱に場違いなほど鼓動が速くなった。
そんな鼓動をごまかすように、握った手にギュッと力を込める。

「もしも何かあったらすぐに言ってね」

「りょーかい」

帰りの坂道は街灯もなく、目に不自由のない私でも心細くなってしまうほどに真っ暗だった。
きっとこの状況では、瞬矢はほとんど何も見えてはいないのだろう。
それはどれだけの恐怖なのかと、彼の心の内を思って苦しくなる。
懐中電灯で足元を照らしながら、私は逐一瞬矢に声をかけつつ、ことさら用心深く坂を下っていった。

「ここで坂道は終わり。今度はあそこの街灯のところまで行くよ。段差はないけど砂利には気をつけてね」

「心配性だなぁ。ここまで来たらもう大丈夫だって」

「だめ。最後まで油断しないで」

丘を下り終え、ようやく明るい街灯の下まで辿り着く。
ひとまず無事にここまで来られたことにホッとして、少し休憩を取ろうと、私はずっと繋いでいた瞬矢の手を放した。
そのせいで、左手がすぐに元の温度を取り戻していく。
冷えた自分の手を見つめながら、私はなぜだか寂しさを感じていた。

「あー、眩しー」

「大丈夫?」

「へーきへーき。そのうち慣れるから」

瞬矢の病気は強い光に弱かったり、暗い場所から明るい場所へ行ったときに目がなかなか慣れなくなることがあるらしい。
眩しさにパチパチとまばたきを繰り返す瞬矢を心配しながら見守る。
するとようやく落ち着いたらしい彼は、穏やかな声で「未央」と呼んだ。