名もなき星が瞬く

――俺はきっと、映画監督にはなれない。

衝撃的な瞬矢の言葉に頭が追いつかないでいると、彼は続けて「“網膜色素変性症”って知ってる?」と言った。

「それが病名……?」

「ああ。数千人に一人くらいが発症する、そんなに珍しくもない病気なんだけど、俺は特に進行が早いらしいんだ。このまま行けば20代のうちにほとんど視力がなくなって、30歳くらいになったらまったく見えなくなる可能性があるって言われてる」

どこか淡々とした調子で、瞬矢が自分の病気を説明をしてくれる。

彼が理科室で動けなくなったのは、“夜盲”という暗い場所で目が見えにくくなる症状のためだったのだそうだ。
視野も狭くなるそうで、最近は死角が増えてしまい、そのせいでよく物にぶつかってしまうらしい。
たしかに瞬矢が足や手を打ちつけてしまっているところを、私も何度か目にしたことがあった。

映画監督になりたい瞬矢が、近い将来、その目に映像を映せなくなるかもしれない。
それがどれだけ深刻な問題なのかは、考えなくても分かることだった。

「その病気を治す薬はあるの? 治療法とか」

「完治できるような治療法も特効薬も、今はまだ見つかってない」

「そうなんだ……」

当たり前だ。
そんなに簡単に進むような話なら、瞬矢だってわざわざ私に打ち明けたりはしなかっただろう。

いつも笑顔で明るい瞬矢が、その笑顔の裏で大変な病気を抱えていただなんて。
彼にかける言葉が見つからず、思わず沈黙してしまう。

「俺も花火は撮りたいよ。俺なら絶対にいい映像が撮れる。だけどもう、暗がりじゃほとんど目は見えない。だから花火を撮るのも難しいんだ」

悔しさの滲む瞬矢の表情を見つめる。
撮りたいものを撮れないというのは、きっと彼の誇りすらも傷つけているのだろう。
そんな瞬矢の気持ちを考えて、私まで悔しくなってしまう。

「それにこのことがクラスのやつらにバレて、同情されるのも嫌だった」

自分自身を嘲るように、瞬矢が力なく笑う。

「だからこれは、俺と未央だけの秘密な」

その笑顔が切なくて、私はただ、頷くことしかできなかった。



それから瞬矢と何を話したのかは、あまり覚えていない。
なんとかタイムカプセルのシーンを撮り終えて、私は放心状態のまま家へと帰っていた。

すでにスケートリンクに行ってしまったのか、リビングにお母さんとお姉ちゃんの姿はない。
こんな顔を見られなくてよかったと思いながら、すぐに自分の部屋へと向かう。
そのまま勢いよくベッドにダイブをして、私は大きく息を吐いた。

こんなに落ち込むのは久しぶりだ。
それは自分が何も見ようとしてこなかったことに気づいたせいだった。
私はずっと、自分だけが不幸みたいな顔をして生きていたのだ。
だからお姉ちゃんが考えていることにも、瞬矢が抱えていることにも、ほんの少しだって気づくことができなかった。
そんな自分のことが情けなくて仕方ない。

「……ラストシーン、早く考えなきゃ」

それならせめて、自分が任されていることだけはやり遂げなければ。
そう考え直して、私は机に向かった。
とにかくアイデアをまとめようと、引き出しの中にある紙とペンを探す。
しかしその引き出しの中に、久しぶりに目にするものを見つけて、私は無意識にそれを手にしていた。