名もなき星が瞬く

「じゃあ次はシーン14な。廊下の終わりまで歩いて、最後にゆっくり振り返って」

「分かった」

ロケハンも終わり、私たちはついに本格的な撮影を開始した。
私が書いた脚本と瀬戸くんの描いた絵コンテをすり合わせながら、ひとつひとつのシーンを丁寧に撮っていく。
カメラの前で演技をするというのはまだ照れくさくて、そしてやっぱり難しい。
けれど瀬戸くんから細かいニュアンスまでアドバイスをもらって、私はなんとか主人公を演じていた。

「はい、カット!」

瀬戸くんから声がかかる。
二人で撮れたばかりの映像を確認して、これで今日の分の撮影が完了した。

「明日は晴れるらしいから、外でのシーンを撮っていくか。タイムカプセルを掘るとこ、とか」

「ああそっか。始めから順番に撮っていくわけじゃないんだね」

「そうそう。撮れるところから撮って、それらをつなぎ合わせてくんだよ」

瀬戸くんが撮影スケジュールを見返す。
彼の計画では、夏休み前には撮り終えられる予定だ。
けれどとんとん拍子に進んで見える映画づくりは、ただひとつだけ大きな壁を残していた。

「ごめんね。まだラストシーンができてないから、撮影計画も立てづらいよね」

そう、私は保留にさせてもらっていた映画のラストシーンを、いまだに思いつくことができていなかったのだ。
クライマックスなのだから、絵的にも映えて清々しい終わり方にしたい。
そんな理想だけはあるけれど、それに相応しい印象的な場面が、私にはなかなか思い浮かばなかった。

「時間はまだまだあるし大丈夫だって。焦ったところで思いつくものでもないしな」

「うん、ありがとう」

瀬戸くんは励ましてくれるものの、やっぱり申し訳なさは募っていく。

「うう、私はしょせん宇宙の塵なんだ……」

「おいおい。そんなに思い詰めるなよ」

気落ちしながら、頭を抱える。
才能のある人だったら、きっとこんなところでつまづいたりはしないだろうに。
そんな私とは対照的に、瀬戸くんは「大丈夫大丈夫」と前向きに繰り返す。

「瀬戸くんも撮影をしてて悩むことってあるの?」

彼のような天才でも、行き詰まったりすることはあるのだろうか。
気になって尋ねると、カメラを拭いていた瀬戸くんは、なぜかジトっとした目で私を見た。

「瞬矢」

しかし瀬戸くんが発したのは、私の疑問に対する答えではなく自分の名前だった。
それを聞いて、彼を名前で呼ぶと約束したことを思い出す。
さっそく約束を破ってしまった私に、彼はとても不満げな顔をした。
そんな顔を見て、思わずくすりと笑ってしまう。

「瞬矢みたいな天才でも、悩むことってあるの?」

「そりゃーあるよ。どんな天才だって、全部が全部スラスラと上手くいくことなんてないだろ。未央の姉ちゃんだってそうなんじゃない?」

「お姉ちゃん?」

唐突にお姉ちゃんのことを言われて、私は首を傾げた。

「未央は姉ちゃんのこと、なんでもできてすごいって思ってるみたいだけど、姉ちゃんだってものすごく悩んだり、実はいろんな人に嫉妬したりしてるかも」

「えー? そうかなぁ?」