名もなき星が瞬く

「悪い。もう大丈夫だから」

「そう? 本当にごめんね?」

「未央はなんも悪くねーよ。次は上の階も行ってみよーぜ」

そう言って、瀬戸くんが背を向けて離れていく。
なんだか納得がいかないけれど、本人が「大丈夫」だと言うのだから仕方ない。
遠くなっていってしまう瀬戸くんの姿を見て、私は慌てて彼の背中を追いかけた。



「最後に二人が会う場所はどうする? 私は最初と同じ中央階段にしたいんだけど」

「えー? それだと画が単調になる気がするんだよなぁ」

「そう? 出会ったときと同じ画にすることで、二人の成長が分かるようになっていいと思うな」

「じゃあ場所は同じにして、撮り方の方を変えてみるか」

それからも私たちは意見をぶつけ合いながら、ひとつずつ撮影場所を決めていった。
たった二人だけで映画を作っているけれど、物語の流れを意識する私と画面映えを一番とする瀬戸くんでは価値観が違い、その分意見も食い違う。
けれど、私はその違う価値観をすり合わせていく時間が楽しかった。
誰かと作品をつくるというのは、一人でつくっているときよりも新鮮な刺激がある。

「よし。これでだいたいは決定したよね」

「そうだな。よっしゃ、お疲れ!」

まだ展開が決まっていないラストシーン以外の撮影場所を決め終えて、私と瀬戸くんは笑顔でグータッチをした。
これで本格的に映画撮影へと移っていけるはずだ。

「残すはラストシーンだけだね。まだ思いついてないけど、絶対に心に残るような終わり方にするから」

「ああ。楽しみにしてる」

それから瀬戸くんは私の試し撮りの映像を確認すると、記念にスマートフォンへと送ってくれた。
始めは少しぐらついてしまっていた映像も、撮っていくごとに上手くなっているのが分かる。

「初めてのカメラ撮影はどうだった?」

「うーん、カメラがぐらぐらしないように持つのが大変だし、モニターを見ながら動くと何かにぶつかりそうで怖かったけど、でもすっごく新鮮で楽しかったよ」

「そっか。たしかに“すげー楽しい”って顔に書いてある」

思わず緩んでいたらしい顔が恥ずかしくて、両手で頬を押さえる。
そんな私を見て愉快そうに笑った瀬戸くんに、私は思い立ってぺこりと頭を下げた。

「ありがとね、瀬戸くん。私を映画づくりに誘ってくれて」

「なんだよ、急に改まって」

「ちゃんと伝えておきたかったから」

瀬戸くんと映画づくりを始めてから、本当に毎日が楽しいのだ。
おかげでここ最近、呪いのように本音ノートを書くことも少なくなった。

「瀬戸くんのおかげだよ。本当にありがとう」

もう一度感謝の言葉を伝えると、瀬戸くんは嬉しそうに目を細めた。

「それならお礼にさ、俺のこと名前で呼んでよ」

「えっ?」

「未央って誰も呼び捨てにしないし、男子のことなんて苗字で呼んでるじゃん?」

「ああ、うん。つい癖で」

周りへの劣等感が強すぎる私は、そんな気後れから友達を親しく呼ぶことができなかったのだ。
たぶん瀬戸くんは、そんな私のことを見抜いているのだろう。