「おっと。1階はここまでか」
自由に歩く瀬戸くんを追いかけながら撮影していると、私たちはついに1階の一番奥の教室までたどり着いた。
一度撮影を止めて、ガラッとドアを開ける。
ほかの教室よりも薄暗いその中には、大きなテーブルや背もたれのないイス、ガラス張りの棚なんかが並んでいた。
「ここは理科室みたいだな」
「そうだね」
年季の入った棚の中には、ビーカーや試験管などの実験器具もわずかに残っている。
けれどどれを見ても使い古されたもので、少しでも触れたら音を立てて壊れてしまいそうだった。
「備品を壊しちゃいそうだし、ここで撮影はしない方がいいかもしれないね」
「ああ」
「あっ、でも暗幕があるよ。これは何かに使えそうじゃない?」
理科室のカーテンはほかの教室とは違い、日光を遮ってくれる真っ黒なものだった。
やけに薄暗いと思ったのは、この暗幕が半分閉じられていたせいだったのだろう。
「おお。けっこう暗くなるね」
試しに暗幕を完全に閉めてみると、まだ外は明るいのに、室内は目を凝らさなければ歩けないくらいに暗くなった。
ここに何か光るものを置けば、幻想的な空間が作れるだろう。
上手く使えば、もしかしたら映画にも活かせるかもしれない。
「ねぇ、瀬戸くん。この暗幕、何かのシーンに使えないかな?」
「…………」
「瀬戸くん?」
私のうきうきとした問いかけに、けれどもいつもの明るい返事が返ってこなかった。
不思議に思って振り返れば、瀬戸くんはその場に佇んだまま、まったく動かなくなってしまっている。
いったいどうしたのだろう。
近づけば、彼は私の立てた足音にビクッと体を揺らした。
「どうかしたの? 大丈夫?」
「ああ……なんでもない」
口では「なんでもない」と言うものの、瀬戸くんの様子は明らかにおかしかった。
体は固まったように動かないし、私とわずか一歩分しか離れていないのに、なぜか視線がまったく合わない。
それに、どこか怯えているようにも見える。
……あ、これってもしかして。
「瀬戸くんって、暗所恐怖症?」
そう尋ねると、瀬戸くんは力なくへらっと笑った。
「……だったりして」
「そっか。ごめんね、知らずに暗くしちゃって。すぐに開けるから」
「悪ぃな」
知らなかったとはいえ悪いことをしてしまったと思いながら、急いで窓際へと戻り暗幕を大きく開く。
理科室が元の明るさに戻ると、瀬戸くんは何度もまばたきを繰り返した。
「もう大丈夫だよ。暗幕を使うのはやめようか」
それにしても、瀬戸くんも我慢していないで早く言ってくれればよかったのに。
恥ずかしさでもあるのかなと見守っていると、彼はその場に立ち尽くしたまま、なぜか眉間に皺を刻んで苦しそうな顔をした。
「瀬戸くん?」
本当にどうしたのだろう。
明るくなったのに、瀬戸くんの様子はおかしいままだ。
それほど怖かったのかと心配になって顔を覗き込むと、瀬戸くんはハッとしたように顔を上げて笑った。
自由に歩く瀬戸くんを追いかけながら撮影していると、私たちはついに1階の一番奥の教室までたどり着いた。
一度撮影を止めて、ガラッとドアを開ける。
ほかの教室よりも薄暗いその中には、大きなテーブルや背もたれのないイス、ガラス張りの棚なんかが並んでいた。
「ここは理科室みたいだな」
「そうだね」
年季の入った棚の中には、ビーカーや試験管などの実験器具もわずかに残っている。
けれどどれを見ても使い古されたもので、少しでも触れたら音を立てて壊れてしまいそうだった。
「備品を壊しちゃいそうだし、ここで撮影はしない方がいいかもしれないね」
「ああ」
「あっ、でも暗幕があるよ。これは何かに使えそうじゃない?」
理科室のカーテンはほかの教室とは違い、日光を遮ってくれる真っ黒なものだった。
やけに薄暗いと思ったのは、この暗幕が半分閉じられていたせいだったのだろう。
「おお。けっこう暗くなるね」
試しに暗幕を完全に閉めてみると、まだ外は明るいのに、室内は目を凝らさなければ歩けないくらいに暗くなった。
ここに何か光るものを置けば、幻想的な空間が作れるだろう。
上手く使えば、もしかしたら映画にも活かせるかもしれない。
「ねぇ、瀬戸くん。この暗幕、何かのシーンに使えないかな?」
「…………」
「瀬戸くん?」
私のうきうきとした問いかけに、けれどもいつもの明るい返事が返ってこなかった。
不思議に思って振り返れば、瀬戸くんはその場に佇んだまま、まったく動かなくなってしまっている。
いったいどうしたのだろう。
近づけば、彼は私の立てた足音にビクッと体を揺らした。
「どうかしたの? 大丈夫?」
「ああ……なんでもない」
口では「なんでもない」と言うものの、瀬戸くんの様子は明らかにおかしかった。
体は固まったように動かないし、私とわずか一歩分しか離れていないのに、なぜか視線がまったく合わない。
それに、どこか怯えているようにも見える。
……あ、これってもしかして。
「瀬戸くんって、暗所恐怖症?」
そう尋ねると、瀬戸くんは力なくへらっと笑った。
「……だったりして」
「そっか。ごめんね、知らずに暗くしちゃって。すぐに開けるから」
「悪ぃな」
知らなかったとはいえ悪いことをしてしまったと思いながら、急いで窓際へと戻り暗幕を大きく開く。
理科室が元の明るさに戻ると、瀬戸くんは何度もまばたきを繰り返した。
「もう大丈夫だよ。暗幕を使うのはやめようか」
それにしても、瀬戸くんも我慢していないで早く言ってくれればよかったのに。
恥ずかしさでもあるのかなと見守っていると、彼はその場に立ち尽くしたまま、なぜか眉間に皺を刻んで苦しそうな顔をした。
「瀬戸くん?」
本当にどうしたのだろう。
明るくなったのに、瀬戸くんの様子はおかしいままだ。
それほど怖かったのかと心配になって顔を覗き込むと、瀬戸くんはハッとしたように顔を上げて笑った。


