名もなき星が瞬く

私が映画をつくるのだと言ったら、お母さんはどんな顔をするだろう。
驚くかな、喜ぶかな、それとも勉強をそっちのけにしてることを怒るのかな。
少し怖いけれど、友理ちゃんに話したときと同じように、私はお母さんにも知ってもらいたかった。
今、私が考えていることを。

「あのね、その……」

「あっ、そうだ。未央もこれを見て?」

けれど決心がつかずに言い淀んでいると、何かを思い出したらしいお母さんはテーブルの隅に置いてあったチラシを取り出した。
そこには大きく“アイスショー”の文字が印字されていて、有名なフィギュアスケートのオリンピック選手の写真も載っている。

「毎年家族で見にいってる夏のアイスショーがあるでしょう? そのアイスショーに、今年は莉央も出られることになったのよ」

「わぁ……すごいね、お姉ちゃん」

お姉ちゃんは小さいころ、チラシに映っているこの選手の演技を観てフィギュアスケートを始めたのだ。
ずっと夢みていた憧れの選手との共演が、国内のトップ選手しか選ばれないというこのアイスショーでようやく叶うらしい。

やっぱりお姉ちゃんは本当にすごい。
私の住む世界とはかけ離れた大きな話に気圧されて、思わず俯いてしまう。

「またこれから忙しくなるわぁ」

「大変大変」と言いながら、それでもお母さんはとても嬉しそうだ。

「それで、未央の話はなんだったの?」

「……ううん、やっぱりなんでもない」

「あら、そう?」

不思議そうな顔をしたお母さんは、またすぐにアイスショーの話を始めた。

お姉ちゃんの話の後では、私の大切なものの話を霞ませてしまう気がする。
それが怖くて、私は結局、映画の話をすることができなかった。