そう言うと、瀬戸くんは動画サイトに上がっているサイレント映画というものを見せてくれた。
それはかなり古い時代の映画で、少し掠れた白黒の画面には、登場人物たちの動きの合間にセリフが映し出されている。
「これなら台詞は言わなくていいし、レトロ感も出てちょうどいいだろ?」
「そんなに上手くいくかな……?」
「そこは天才監督の俺に任せとけって」
瀬戸くんが堂々と胸を叩く。
それから彼は持っていたカメラを取り出し、胸の辺りで構えた。
「雰囲気掴みたいから、テキトーに歩いてるのを撮らせてくれるか?」
「うう、やっぱり照れるんだけど」
「何事も慣れだって。今日は後ろ姿だけでいいからさ」
強引な彼に戸惑いつつも、渋々頷く。
それから私は言われたとおり、旧校舎の中を探検するように歩き出した。
「右の教室に入って。そのまま真っ直ぐ。ちょっとそこでくるっとターンしてみて」
瀬戸くんの指示に従いながら動いていく。
自分の姿をカメラで撮られるなんて、正直に言うとものすごく恥ずかしい。
けれどそんなことは言っていられなかった。
だって私はこの経験を通して、きっと人生を変えてみせるのだから。
「よっし、いい感じ。未央も見てくれよ」
数分の試し撮りが終わると、瀬戸くんは撮ったばかりの動画を私にも見せてくれた。
旧校舎のレトロな感じを活かすために、映像は意図的に暗めに撮られているらしい。
映っている私の動きはぎこちないけれど、瀬戸くんが撮るとなぜだか様になって見えるのだから不思議だ。
「あとでレタッチもするけど、こんな質感でどう?」
「なんかすごくいいかも……!」
「だろ?」
まだ試し撮りの段階なのに、このクオリティーはすごい。
ひょっとしたら、かなりいい作品が出来上がるのではないだろうか。
映画制作に現実味が増して、なんだか胸が熱くなってくる。
こんなにも楽しいと思えるのは、初めて小説を完成させたとき以来のことだった。
「ただいまぁ」
「あら、おかえりなさい。今日は遅かったのね」
「うん。ちょっと友達と話してて」
瀬戸くんとロケハンをしていたらすっかり帰るのが遅くなってしまい、家に着くとすでにお姉ちゃんはスケートリンクに行ってしまっていた。
お母さんはお姉ちゃんの練習に着いていっていることが多いけれど、どうやら今日はその日ではなかったらしい。
テーブルにはオムライスがふたつ並べられていて、お母さんが「早く食べましょ」と言う。
久しぶりに誰かと夕ご飯を食べられるなと思いながら、私はダイニングのイスに座った。
「最近勉強はどうなの? 塾に通わなくて本当に大丈夫?」
「うん。とりあえず模試だけ受けさせてもらえれば」
「そうなの。何かあれば相談してちょうだいね」
お母さんと向かい合い、オムライスを食べながら話をする。
私はいちおう受験生だけれど、家から一番近くの高校を志望していて、その高校の偏差値はそれほど高いわけではない。
だから今のまま勉強を続けていれば大丈夫だと黒川先生からも言われている。
そんなことよりも、今一番大切なのは映画のことだった。
先ほど瀬戸くんと、“夏のあいだに撮り終えて、秋の文化祭に上演しよう”と約束をしたのだ。
「お母さん」
「ん?」
それはかなり古い時代の映画で、少し掠れた白黒の画面には、登場人物たちの動きの合間にセリフが映し出されている。
「これなら台詞は言わなくていいし、レトロ感も出てちょうどいいだろ?」
「そんなに上手くいくかな……?」
「そこは天才監督の俺に任せとけって」
瀬戸くんが堂々と胸を叩く。
それから彼は持っていたカメラを取り出し、胸の辺りで構えた。
「雰囲気掴みたいから、テキトーに歩いてるのを撮らせてくれるか?」
「うう、やっぱり照れるんだけど」
「何事も慣れだって。今日は後ろ姿だけでいいからさ」
強引な彼に戸惑いつつも、渋々頷く。
それから私は言われたとおり、旧校舎の中を探検するように歩き出した。
「右の教室に入って。そのまま真っ直ぐ。ちょっとそこでくるっとターンしてみて」
瀬戸くんの指示に従いながら動いていく。
自分の姿をカメラで撮られるなんて、正直に言うとものすごく恥ずかしい。
けれどそんなことは言っていられなかった。
だって私はこの経験を通して、きっと人生を変えてみせるのだから。
「よっし、いい感じ。未央も見てくれよ」
数分の試し撮りが終わると、瀬戸くんは撮ったばかりの動画を私にも見せてくれた。
旧校舎のレトロな感じを活かすために、映像は意図的に暗めに撮られているらしい。
映っている私の動きはぎこちないけれど、瀬戸くんが撮るとなぜだか様になって見えるのだから不思議だ。
「あとでレタッチもするけど、こんな質感でどう?」
「なんかすごくいいかも……!」
「だろ?」
まだ試し撮りの段階なのに、このクオリティーはすごい。
ひょっとしたら、かなりいい作品が出来上がるのではないだろうか。
映画制作に現実味が増して、なんだか胸が熱くなってくる。
こんなにも楽しいと思えるのは、初めて小説を完成させたとき以来のことだった。
「ただいまぁ」
「あら、おかえりなさい。今日は遅かったのね」
「うん。ちょっと友達と話してて」
瀬戸くんとロケハンをしていたらすっかり帰るのが遅くなってしまい、家に着くとすでにお姉ちゃんはスケートリンクに行ってしまっていた。
お母さんはお姉ちゃんの練習に着いていっていることが多いけれど、どうやら今日はその日ではなかったらしい。
テーブルにはオムライスがふたつ並べられていて、お母さんが「早く食べましょ」と言う。
久しぶりに誰かと夕ご飯を食べられるなと思いながら、私はダイニングのイスに座った。
「最近勉強はどうなの? 塾に通わなくて本当に大丈夫?」
「うん。とりあえず模試だけ受けさせてもらえれば」
「そうなの。何かあれば相談してちょうだいね」
お母さんと向かい合い、オムライスを食べながら話をする。
私はいちおう受験生だけれど、家から一番近くの高校を志望していて、その高校の偏差値はそれほど高いわけではない。
だから今のまま勉強を続けていれば大丈夫だと黒川先生からも言われている。
そんなことよりも、今一番大切なのは映画のことだった。
先ほど瀬戸くんと、“夏のあいだに撮り終えて、秋の文化祭に上演しよう”と約束をしたのだ。
「お母さん」
「ん?」


