名もなき星が瞬く

だけど私が心を開いたら、案外周りは受け止めてくれるものなのかもしれない。

「出来上がったら友理ちゃんも観てくれる?」

「もちろん。楽しみにしてるね」

おそるおそるそう尋ねると、友理ちゃんはやっぱり嬉しそうに笑ってくれた。

なんだろう。
瀬戸くんは私の人生を変えてくれると言ってくれたけれど。
なんだかもうすでに、少しずつ私の世界が変わり始めているような気がする。



「よっし。それじゃあ始めるか」

放課後。
ホームルームが終わると、すぐに私と瀬戸くんは旧校舎へと向かった。
ロケハンなんて専門用語を聞くと、本格的に映画の撮影を始められるみたいでワクワクしてしまう。

「だけどロケハンって、具体的には何をすればいいの?」

「撮影に使う場所を絞ったり、イメージを膨らませたりできればいいよ。こんなこともあろうかと、カメラはいつも持ち歩いてるし」

瀬戸くんが通学リュックから立派な一眼レフカメラを取り出す。
用意周到な瀬戸くんに感心しながら旧校舎の玄関の鍵を開けて、二人並んで中へと入る。
いかにも古びた感じの内装は、それでも吹奏楽部が使うこともあるからか、そこまで埃っぽくはなかった。

「おお、やっぱ雰囲気いい感じじゃん? 冒頭の主人公が走ってくるシーンはここの廊下にしようぜ」

「うん。いいね」

鉄筋製ではあるもののドアや窓枠に木が使われている旧校舎は、想像以上に昔懐かしい風景を残してくれている。
長く真っ直ぐに伸びた廊下は、たしかに主人公が日常から逃れたくて走ってくる冒頭のシーンにふさわしいかもしれない。
映像が目に浮かんでくるようで、私は撮影が待ち遠しくなった。

「そう言えば、映画って誰に出演してもらうの? 演劇部の子たちに頼んでみる?」

持ってきていた上履きに履き替えながら、ふと浮かんだ疑問を瀬戸くんに投げかける。
撮影には少なくとも、主人公と男子生徒の二人の演者が必要になるだろう。
しかし私の疑問を聞いた瀬戸くんは、なぜだかきょとんとした顔をして私を見た。

「え? 俺らでよくない?」

「へっ!?」

瀬戸くんがあっさりと言い放った言葉に、今度は私が驚いてしまう。

「登場人物は女子生徒と男子生徒だけだし、俺ら二人ででちょうどいいじゃん」

「むっ無理だよ、無理無理! 私、演技なんてしたことないし!」

「まぁたしかに、俺も棒読みにならない自信はないな」

「でしょ!?」

「だけど撮影に関わる人数が多くなると、それだけイメージの共有が大変になるんだよなぁ」

瀬戸くんがうーんと唸りながら頭を悩ませる。
大変になるのだとしても、私は演劇なんかには触れたこともないのだ。
せっかく素敵な映画をつくろうとしているのに、素人の演技で台なしにしたくはない。
そう思って「絶対にできない」と手を横に振っていると、やがて瀬戸くんはひらめいたように手を打った。

「じゃあさ、サイレント映画風にしてみるのはどう?」

「サイレント映画?」

「昔の映画みたいな、セリフがなくて、暗転した画面に字幕が映し出されるやつ」