名もなき星が瞬く

「瀬戸くん。映画のストーリーを考えてみたから、聞いてほしいんだけど」

瀬戸くんと映画をつくると決めた次の日。
夜中まで考えていたストーリーを早く伝えたくて、私が朝イチで瀬戸くんに声をかけると、彼は目を丸くしながら自分の席を立った。

「もう? すっげー早いな!」

「うん、考え出したら止まらなくなっちゃって。だけどその、笑わないで聞いてね?」

「信用ねーなぁ。未央を笑ったりしたことなんかないだろ?」

たしかにそれはそうだ。
瀬戸くんは人が頑張ってつくり上げたものを笑ったりはしないだろう。
だけど臆病な私は、つい予防線を張ってしまう。
教室の隅を陣取り、緊張でどくどくと動く心臓を落ち着かせるために深く息を吸ってから、私は瀬戸くんの目を真っ直ぐに見た。

「舞台は旧校舎がいいと思うの。ちょっと年季が入ってる感じとか、瀬戸くんの作風に合うと思って」

「おお、なるほどな。旧校舎か」

私たちが普段過ごしている校舎の敷地内には、数年後に取り壊される予定の旧校舎がある。
今では吹奏楽部がパート練習をするのに活用されるくらいで、夜にはオバケが出そうなほどに暗く寂れているのだけれど、瀬戸くんならあの古めかしい旧校舎をレトロな感じで素敵に撮ってくれると思ったのだ。

「それでね……ストーリーは自分を主人公にして考えてみたんだ」

「未央が主人公?」

「正確には私と同じ悩みを持った子ってことだけど」

主人公は私と同じ、劣等感に苦しむ女子中学生。
自分と他人を比べてばかりの苦しい日々から逃れたくて、ある日人気のない旧校舎に足を踏み入れた彼女は、そこで一人の男子生徒と出会うのだ。
難病を患う彼もまた、辛い日々から逃れるように旧校舎へとやってきていた。
互いに暗い気持ちを抱えながら生きてきた二人は、誰もいない旧校舎の中で少しずつ仲よくなっていく。

「それでそれで? 二人はどうなるんだ?」

ストーリーに引き込まれているように、瀬戸くんが前のめりになる。
よかった、悪くない反応だ。

「実は旧校舎の時空は歪んでいて、二人の生きている時代は50年も違っていたの。そのことに気づいたころには時空の歪みは直っていて、二人は二度と会えなくなってしまうんだ」

「うわー、切ない展開だな」

「それで男子生徒は病気で亡くなる前に、主人公に向けて書いた手紙をタイムカプセルに入れて残すの。ラストのシーンはまだ決まってないけど、手紙を読んだ主人公が前を向いて進み出すことを象徴するような感じで終わりたいと思ってる」

自信のなさから早口で説明を終えて、瀬戸くんの顔色を窺う。

「どう? ちょっと王道すぎるかな? ――わわっ!」

すると突然、瀬戸くんから強く肩を掴まれ、私は変な声を上げてしまった。
目の前の瀬戸くんは、まるで宝くじにでも当たったかのように興奮している。

「めちゃくちゃいいと思う!」

「そっか。よかったぁ」

「旧校舎なら雰囲気ある画が撮れるかもな! うわー、盲点だった! 未央って天才か!?」

「いやいや、言いすぎだよ……」

興奮が冷めない様子の瀬戸くんを見て、ホッと息を吐く。
それから通学リュックを開けて、私はその中からルーズリーフの束を出した。