名もなき星が瞬く

瀬戸くんが私の人生を変えてくれると言うのなら、私だって彼の願いに応えてみたい。

「やってみたい。私、瀬戸くんと一緒に映画をつくってみたい」

そう言うと、瀬戸くんの瞳の中の星が増えたような気がした。

「っしゃ! そうこなくちゃ――痛って!」

しかし次の瞬間、喜んで飛び跳ねた瀬戸くんは、勢いあまって左足を机の角に打ちつけてしまった。
痛そうに顔を歪める彼に、私も慌てて駆け寄る。

「ちょっと瀬戸くん、大丈夫!?」

「悪い悪い。興奮しすぎた」

「私が協力するって言ったくらいで大げさだよ」

けれどこんなふうに喜んでもらえるのは素直に嬉しかった。
ようやく痛みが治ってきたらしい瀬戸くんが、私に向かって勢いよく手を差し伸べる。

「見た人の心に一生残るような映画をつくろう」

その手を取って、私も「うん」と返事をした。



「これ、脚本書くときの参考資料にして」

そう言われて瀬戸くんから送られてきたのは、時間にして5分くらいの、彼が一人で撮ったという短い動画だった。
ストーリー性はあまりなく、瀬戸くんが美しいと思った景色がひたすらに映し出されている。
そう、この動画は何か特別に感動的な演出がされているわけではないのだ。
それなのに、なぜだか見ているだけで胸を打つ。
次はどんなものを見せてくれるのだろうかと期待してしまう。
こんなふうに思わせるのが、彼の持っている才能というものなのだろうか。

「できたらさ、2、30分くらいのショートムービーを撮りたいんだよね。主人公は俺らと同じ中学生にしてくれたら、あとのストーリーは全部未央が考えていいから」

瀬戸くんがつらつらと希望を挙げていく。
その声を聞きながら、けれども私はスマートフォンから目が離せなかった。

「未央、どうかしたか? 俺の話聞いてる?」

「あっ、ごめん。あのね、ちょっと意外だと思ったの」

「意外って?」

「瀬戸くんって明るい性格だから、瀬戸くんの撮る映像も賑やかな感じかと思ってたのに、想像と真逆なんだもん。刹那的で儚いって言うか」

「セツナテキ」

言葉の意味が分かってなさそうな発音で、瀬戸くんが繰り返す。

「えっと、遠い未来のことは考えないで、今この瞬間だけを輝かせたいって感じかな? 静かで冴えた映像で、だからなんだか意外だなって思ったの」

「ふぅん。さすが、脚本家の語彙力は違うね」

「ちょっと。馬鹿にしてるでしょ」

「ううん。そうやって真剣に見てもらえて嬉しい」

瀬戸くんがいたずらっ子のように笑う。
その顔を見て唇を尖らせながらも、私はもう一度スマートフォンに視線を落とした。

彼の作風なら、ストーリーはコメディよりシリアスな感じの方が合うかもしれない。
中学生が主人公なら、分かりやすい成長物語がいいだろう。
舞台はもちろん学校だ。
今はほとんど使われなくなった旧校舎なら、ほかの生徒の姿も入らなくて撮りやすい気がする。

瀬戸くんの才能に触発されたせいか、私の頭の中にはぽんぽんとアイデアが浮かんできた。

「生身の私か……」