名もなき星が瞬く

穴があったら入りたいほど恥ずかしくて、そのせいで涙がぽろぽろと流れ出す。
そんな私を見て、瀬戸くんはぎょっとしたように机から立ち上がった。

「あっ、いやその、わっ悪いっ! 俺は別に未央を泣かせたかったわけじゃなくて……!」

「ううん、ごめん、瀬戸くんが悪いんじゃないの。あんまり図星すぎて、自分のことが恥ずかしくなっただけ」

私を泣かせてしまったと慌てる瀬戸くんに、彼のせいではないと首を振る。
けれど瀬戸くんは気まずそうに頬を掻きながら、「うう」や「えーと」と声をもらして狼狽えてしまっていた。
本当に瀬戸くんのせいではないのに。
これ以上彼に迷惑をかけたくなくて、早く泣き止まなくてはと、目元をごしごしと拭う。

「俺が言いたいのは、未央はもっと自分が書きたいことを書いた方がいいってことなんだよ。小説のことはよく分からないけど、本音って言うか生身っていうか、心の叫びみたいなもんをさ」

ようやく私の涙が収まったころ、瀬戸くんは弁解するようにゆっくりとそう言った。
けれど彼の言うことにまったく納得できず、つい眉をひそめてしまう。

「でも知ってるでしょ? 私の本音なんて最悪だよ? 汚くてぐっちゃぐちゃ」

才能ある人たちのこと妬んで、誰かに自分を認めてほしくて。
私の本音は、人になんか到底見せられるものではないのに。

「上等じゃん。上辺だけのもんよりよっぽど面白いよ。それとも未央は今のままでいたいの?」

「そんなわけないよ……!」

できることなら私だって変わりたい。
こんな卑屈な自分ではなくて、小説を書くことが楽しいと思えた自分でいたい。
それにいつか自分に自信を持って、前を向いて生きていきたい。

「だけど全部をさらけ出して、改めて自分が何も持ってないつまらない人間だって思い知るのも怖い」

「何も持ってないなんてことないだろ」

私が弱音を吐くと、瀬戸くんは少し怒った顔でそう言った。

「未央の書く文章はすげーよ。悔しさの中に諦めたくないっていう思いが見えて、ノートを読んでる俺まで熱くなった。そんな俺の気持ちまで否定するようなこと言うなよ」

「そんなの寂しいだろ」と、瀬戸くんが困ったように笑う。

……本当かな。
自分には何もないと思っている私にも、誰かの心を動かせるような、そんな力があるのかな。

「俺が未央の人生を変える。だから俺と一緒に映画をつくってくれよ。絶対に後悔なんてさせないから」

瀬戸くんが真っ直ぐな目で私を射抜く。

彼は本当にすごい。
まるでどんな暗闇でも照らす、太陽のような明るさを持っている。

私も彼のようになりたい。
いつか、誰かを照らせるような光になりたい。

「……瀬戸くんは、どんな映画を撮りたいの?」

「えっ?」

「恋愛? ファンタジー? それともホラー?」

「今!」

「いま?」

「今この瞬間の、中学生でいる時間を撮りたいんだ」

瀬戸くんの目が星を宿したようにきらめく。

今はまだ、自分のことを信じることはできない。
けれど私は、瀬戸くんのことなら信じられるかもしれないと思った。