名もなき星が瞬く

放課後になっても瀬戸くんが私の本音ノートのことを誰かに話した様子はなかった。
どうやら本当に言いふらすつもりはなかったらしい。
それなのに、私はなんて失礼な態度で一方的なことを言ってしまったのだろう。

「瀬戸くん」

昨日の自分を反省して、瀬戸くんが一人になったタイミングを見計らって声をかける。
すると彼はいつものあっさりとした調子で「おお」と振り向いてくれた。

「あの、昨日はごめんね。一人で勝手に騒いで怒っちゃって」

「あー、別に? 未央ってあんな大きい声も出せるんだって驚いたけどな」

「ううっ……本当にごめん」

「冗談だって。俺も唐突だったしさ」

瀬戸くんがあっけらかんと笑うのを見て拍子抜けする。
どうやら私と違って、昨日のことはまったく気にしていないらしい。
とりあえず彼が怒っていなくてよかったとホッと息を吐く。
するとすぐそばにあった誰かの机の上に、瀬戸くんがどかっと座った。

「それよりも昨日の話、ちょっとは考えてくれた?」

「昨日の話って、脚本のこと? まさか本気だったの?」

「当たり前だろ。じゃなきゃ初めから誘ってない」

「そうだったんだ。才能がないのをからかわれただけだと思ってた」

「嘘だろ? ひでーなぁ。未央の中の俺って、そんなに性格が悪いヤツなわけ?」

「ショックなんですけどー」と、ふざけた調子で瀬戸くんが言う。
けれど私も、まさか本気で映画づくりに誘われていたなんて思わなかったのだ。
とたんに居心地が悪くなって、けらけらと笑っている瀬戸くんを見つめる。

「どうして私なの?」

「へっ?」

「あのノート、読んだんでしょ? 私、小説コンテストに落ちまくってるくらい才能ないのに、どうして私と映画をつくりたいって思ったの?」

それは当然の疑問だったと思う。
私みたいな人間と映画をつくるより、凛ちゃんみたいな有名な人を撮った方がいい。
その方がきっと、瀬戸くんの望むようにいろんな人に彼の映像を見てもらえる。
けれど瀬戸くんは思いもよらなかったかのように目を丸くしてから、難しい顔をして「うーん」と唸った。

「上手く言えないんだけど、未央の書く文には熱があると思ったんだよ」

「熱?」

「うん。それは俺に足りないもののような気がしてさ。だから俺にはない未央の熱が足されたら、もっといい映像が撮れると思ったんだ」

私にあって、瀬戸くんにはない熱。
だとしたらそれって、劣等感とか承認欲求とか、マイナスな感情からくるものではないのだろうか。
そんなものが足されてしまったら、せっかくの彼の才能を台なしにしてしまうような気がする。

「なぁ。未央の書いた小説、読ませてくれよ」

「えっ!?」

やっぱりこの誘いは断った方がよさそうだと考えていると、瀬戸くんはきらきらした目でそう言った。

「いいじゃん。どうせノートは全部読んじゃったんだし、もう俺に隠すことなんてないだろ?」

「それはそうだけど……」

「未央が書く世界が知りたい」