暇なんだから校内の散歩でもしようかな。 職員室から東側へ行ってみる。
ここは外来講師の控室らしい。 英語とフランス語の札が下がっている。
 その隣は生徒会室。 役員になったらここで会議をするんだ。
もちろん俺は入ったことも無い。 生徒会には興味すら無くてね。
 その隣は何や分からん物置みたいな部屋が有る。 ここは何なんだろう?
そして反対側へ回りましょうか。 ここは放送室だね。
朝となく昼となく誰かが放送している部屋。 放送部もここでやってるよね。
 その隣は購買室。 昼前になるとパンが並ぶんだ。
昼休みになると生徒が何人か張り付いていてノートやシャーペンなども売っている。 俺もちょいちょい世話になってる部屋だ。
 そこを過ぎると第一会議室。 ここは大きな部屋だね。
就職の案内もここでやってるんだ。 毎年先輩たちが出入りしてたっけ。
 その隣は第二会議室。 ここは小さい部屋だ。
学年会議とか顧問会議とかそんなのをやってる。

 その脇には階段が有る。 ここは二階だから三階に上がってみようか。
階段の傍には社会科資料室と理科室、音楽室が並んでいる。 音楽室の隣には音楽準備室が有る。
何をする部屋かって? あの人がコーヒーを飲んでる部屋だよ。
 「あらあら、お散歩?」 「そうなんす。 やることが無くてさあ。」
「じゃあさあレコードの整理を手伝ってくれる?」 「またやるんすか?」
 「いいからいいからおいでよ。」 ってことで俺は30分ほどこの部屋で雑用を申し渡されてしまったのであります。
クラシック関係でショパンだとかバッハだとかモーツァルトだとかいうレコードがたーーーーっくさん有ります。 それを名前順に並べていくんだ。
授業の旅にあっちこっちから引っ張り出すもんだからさあ、分からなくなるんだって。 だからってこんな日にやらなくても、、、。
廊下を歩いている足音が聞こえる。 (誰だろう?)
耳を澄ましていたらななななんと美和先生だ。 俺は一瞬固まってしまった。
 「どうしたの?」 準備室のドアを開けた美和が不思議そうな顔をした。
「美和ちゃんも来たのかい?」 「在学中は先生にもお世話になったから。」
「在学中?」 「そうよ。 美和ちゃんはねえ、リコーダーが上手かったのよ。 ねえ。」
何だ、この二人は? つまりは美和はここの卒業生ってことか?
 「驚いた? 私ねこの学校の出なの。」 「ああ、そうっすか。」
俺にはそれしか言えなかった。 母ちゃんが知ってることにも驚いたのに、、、。
 リコーダーが上手かった。 そっか、、、俺には無理だなあ。
だいたいが音楽的センスなんて0だし、文学的センスも無いんだし、、、。
 「よしよし。 整理も終わったね。 ありがとう。」 簡単なお礼を言われて俺は音楽準備室を出た。
校内探検はまだまだ続くんだ。 隣は数学教室だね。 ここには三角形とか平行四辺形とかいう模型が仕舞ってある。
 数学教室の隣はっと、、、。 家庭科室だ。
ここは裁縫とか採寸とかやってる家庭的な部屋だねえ。 俺たちも1年の時にはやったよ。
 針を持ってたら腕に刺しちゃって痛かったなあ あれは。 香澄たちにも死ぬほど笑われたっけ。
「そんなに笑わなくてもいいだろう?」 「ごめんごめん。 あんまりにも面白い顔をするもんだから、、、。」
「こっちはなあ真面目に痛かったんだぞ。」 「そうよねえ。 分かる分かる。 あははははは。」
「分かってねえだろう お前たち。」 授業が終わってもみんな揃って笑いを堪えてたのがよく分かるよ。
 後は俺たちの教室だね。 一階に下りてみようか。
一階にはね、調理室とか作法室とか事務室、校長室に印刷室、おまけに来賓室なんて部屋が有るんだ。
たまに用事が有って来るのは用務員室。 カップラーメンのお湯を沸かしたりするのにさあ、、、。
 でも最近の学校にはコンビニなんて在るって言うよねえ。 必要なのかなあ?
ここだったら近くにコンビニも有るから必要無いわなあ。 んでもって最後に辿り着いたのが保健室だ。
 保健室の先生は優しいんだよなあ。 いつだって真剣に話を聞いてくれるし、、、、。
一年上の人で保健室登校を許されてた人が居る。 最後までそうだったらしいけど、嫌な顔一つしなかったんだって。
 そんな上野麻衣子先生はまだまだ独身だ。 「結婚しないの?」って聞いたら「誰も女だって気付いてくれないのよ。」って笑ってたけど。
保健室の前には控室が有る。 何のために在る部屋なのか俺には分からない。
 そんでもって教室に帰ってくると香澄たちも戻ってきていてみんなで大盛り上がりの最中だった。
「何処に行ってたのよ?」 「ブラブラと散歩してたんだよ。」
「散歩? お前がか?」 「そうだよ。 悪いか?」
「またまた、、、。 そう言いながら高橋先生を追い掛けてたんだろう?」 「興味無いよ。」
「えーーーーーー? あんな可愛い先生に興味無いってか?」 「驚き過ぎだってばよ。」
「お前が興味無いって言うからそっちの方が驚きだよ。」 「うるさいやつだなあ。 静かにしてよ。」
 「よしよし。 喧嘩はそれくらいにしてだなあ。 ミーティングも終わったんだし後は何も無いから無事故で帰るように。」 担任が出席簿を抱えて教室を出て行った。
それからはまたいつものように組に分かれてドタバタと昇降口へ向かうのであります。 電車組もいつもの通りだね。
 「今日は寝坊しないようにしなきゃな、、、。」 「何課言った?」
「何もねえよ。」 「寝坊がどうとかって。」
「うっせえなあ。 自分の勉強の心配だけしてろよ。」 「ええ? ひどーい。」
「また始まった。 何か有るとすぐそれだもんなあ。」 「香澄、行こうよ。」
「そうね。」 俺が校庭を見ている間に律子たちはさっさと行ってしまった。
 この校庭も広いっちゃ広いけど何のためにここまで広くしたのか分からない。
無駄だと言えば無駄だし必要だと言えば必要だ。 地域の人たちは「地震などが起きた時はここに避難しようね。」なんて話し合ってるけど、、、。
 でもここにテントなんかを作ったらそれだけでいっぱいになるんじゃないのか? トイレなんかは置けないよな たぶん。
そんなことを考えながら俺も歩き出す。 律子たちはもう駅へ行ってしまったらしい。
 ブラブラと散歩しながらやっと駅にまで来ると香澄がスマホを弄りながらホームに突っ立っていた。
「どうしたんだよ?」 「だって話し相手が居ないから待ってたの。」 「俺をか?」
「そうよ。 あんだけ言っちゃったけど、、、。」 「まあ、いつものことだもんなあ お前らは。」
「そんな言い方しないでよ。」 「ごめんごめん。」
 俺はグッと背伸びをしてから線路を見やった。 「まだ来ないよな。」
「そうねえ。 あと15分くらいかな。」 「15分か、、、。」
「何か?」 「いや、香澄と二人きりなんだって思って、、、。」
「私じゃダメだったかな?」 「そんなことは無いよ。 今までずっと一緒だったんだから。」
 香澄は反対側のホームに目をやった。 「あれ? 高橋先生じゃない。」
「え? 何処?」 「ほら、あそこ。」
 反対ホームの自販機の傍に走り寄った人影が居る。 髪型からして美和なのは間違いない。
俺はまたまた固まってしまった。 あの時のように。
 「ねえねえ、行っちゃうよ。」 ボーっとしている俺の耳に焦っている香澄の声が聞こえた。
我に返ってみると到着した電車が走り出そうとしている。 「うわ、、、。」
慌てて中へ飛び込む。 間一髪だった。