俺の彼女は高校教師

 「ねえねえ弘明君。 いいことしようよ。」 「何するんだよ?」
「こっち向いて。」 何だか香澄がマジな顔で迫ってくる。
(やべえなあ。) 俺はふと窓のほうに目をやった。
 「逃げたわね?」 「ちょっと横を向いただけだよ。」
「せっかくの雰囲気を壊さないでよ。」 「自分で壊しといて。」
「何よ? 私のせいなの?」 「そうだよ。 柴犬ちゃん。」
「だから私は柴犬じゃないって。」 「じゃあ何だよ?」
「そうねえ、トイプードルかなあ。」 「ふーん、どう見てもパンダだけど。」
「あのねえ、私はあんなデブじゃないから。」 「お腹も出てますやんか。」
「それは言わないの。」 「じゃあデブだって認めるな?」
「それとこれとは違うわよ。 馬鹿。」 「また始まったぞ。 馬鹿馬鹿攻撃が。」
「馬鹿じゃなかったら何よ?」 「俺は凡人ですから。」
「一緒じゃない。」 「アホか。 馬鹿も極めれば天才になるんだぞ。」
「漫画見過ぎだから。」 「へえ、お前よりは見てないけどなあ。」
「失礼ねえ。 最近はそんなに読んでないわよ。」 「最近はだろう?」
「う、うん。」 「はい、お前の負け。」
「意地悪。」 そう言って香澄は俺にもたれてきた。
(まったくもう、、、。 お嬢様はこれなんだからなあ。)

 それからしばらくして母ちゃんの声が聞こえた。 「誰か来てるのかい?」
「ああ、香澄だよ。」 「裏に靴が有るからびっくりしたじゃないよ。」
「ごめんなさい。」 「いいけどさあ、何か有ったの?」
「チャイムを鳴らしても気付いてくれないから裏から入ったんです。」 「そっか。 よくやることだな。」
母ちゃんは忙しそうに歩き回っている。 夕食の支度をしてるみたいね。
 (こないだみたいなことにはならねえだろうなあ?) 姉ちゃんは居ないからまだいいけど、、、。
 そこへ父さんも帰ってきた。 「オー、香澄ちゃんも来てたのか。」
「はい。」 「こないだみたいなことにはならねえだろうなあ?」
「それは大丈夫。 帰ってきた時にはもう居たから。」 「そうなのか。」
 安心したような顔で父さんはビールを飲んでおります。 「ところでお母さんたちは知ってるのか?」
「ここに来てることは知ってます。」 「そうか。 おい、弘明 夜飯食ったら送って行けよ。」
「うーーーん、分かった。」 いやいや今夜も何課起きそうだなあ。
 夕食が出来上がる頃、香澄はどうやら母さんに電話したらしい。 「うん分かった。」
さてさてそれから食事ですわ。 姉ちゃんが居ないからどっか静かだよなあ。
 テレビは点いてるけど誰も見てません。 面白くなくて。
テーブルを囲んで4人で静かに食事をしてます。 俺は美和のことばかり考えてますけど、、、。
 だってさあ遊びに行くと昼食を作ってくれてニコニコしながら食べるんだよ。 なんかドキドキしちゃうけどさ。
まあ透け透けとかビキニとかでハラハラさせられるけどな。 「体を任せたいって思ってるんだな。」って姉ちゃんは言ってたけど。
でもさ、体を任せるってどういうことなんだろうなあ? 俺にはさっぱり、、、。

 8時を過ぎてそれぞれに食事を終わらせてのんびりしていますが、「そろそろ送って行った方がいいんじゃないのか?」って父さんが言うもんだから俺と香澄は玄関に出てきました。
「じゃあまた遊びに来るんだよ。」 父さんは香澄にそう言うと風呂に飛び込んでいきました。
 「さてさてお嬢様をご自宅までお送りしましょうかね。」 「だからさあお嬢様ってのはやめてよ。」
「お前はたぶんこれからもお嬢様なんだろう?」 「だから、、、。」
「裏からコソコソ入ってきたりしてさあ。」 「チャイムに気付かない弘明君が悪いのよ。」
「押したのか?」 「押したわよ。 ちゃんとねえ。」
「それにしては聞こえなかったぞ。」 「耳が悪いんだなあ。」
 夜道を歩きながら空を仰いでみる。 星がチラチラと瞬いている。
何だか知らないが星座も輝いているみたい。 あの空を飛んでみたいなあ。
ウルトラマンだったら飛べるかな? うーーーん。
 「こっち向いて。」って言ってきた時、香澄は何をしたかったんだろう? 俺が考えることでもないかもしれないけど、、、。
もしかしてどっかの映画みたいにチューしようとしてたとか? あれくらいのおませなら有り得るよな。
 そんなことを考えながらバス通りを歩いていく。 夜もなかなか賑やかですなあ。
この辺りは真夜中に暴走するやつらが居て時々白バイが見張ってんだよな。 おっかねえ。
 でも不思議とこの辺りで逮捕されたやつは居ないんだ。 みんな逃げるの速いからさ。
とはいうものの写真を撮られて後でちゃっかり捕まってたりするんだけど。
 「雰囲気いいなあ。」 「何がだよ?」
「静かな夜道を彼と二人で歩くのって夢だったんだ。」 「へえ、彼氏ねえ。」
「んもう、ちっとは分かってよ。」 「お前がもうちっとまともになったら考えてやるよ。」
「まともってどういうことよ?」 「可愛くてお淑やかで無駄が無くて料理好きで余計なことを言わないとか、、、。」
「無理だなあ。 私って料理は苦手だし。」 「魚屋なのにか?」
「それとこれとは関係無いわよ。」 「大いに関係有ると思いますが。」
「何でよ?」 「魚だって捌かなきゃいけないんだぞ。 分かる?」 「捌くのはご主人の仕事ね。」
香澄は月を仰いだ。 「きれいねえ。」
「豚が餅でもついてるのかなあ?」 「アホか。 ウサギだってば。」
「そっか。 ウサギ化。」 「弘明君も大丈夫?」
「お前じゃないから大丈夫だよ。」 「んもう、、、。」
 とはいうけど香澄はさっきから俺にくっ付いてる。 その温もりがじわじわと伝わってくる。
黙って歩いていたら香澄が俺の背中に腕を回してきた。 「馴れ馴れしいですねえ。 お嬢様。」
「だからさあ、お嬢様はやめてってずーーーーーーーーーーーっと言ってるでしょう?」 「でもお前、やってることはお嬢様じゃないか。」
「お嬢様ってこんなことやってるの?」 「たぶんねえ。」
「たぶん、、、。」 「何だよ?」
「調べもしないで私をお嬢様にしちゃったの?」 「お前ならピッタリだもん。」
「何処がよ?」 「人間そのものがお嬢様ですわよ。 香澄様。」
「嫌だなあ まったく。」 「でもそんな俺が好きなんだろう?」
「う、うん。」 「そこだけは素直なんだなあ。」
「生まれる前から決めてましたから。」 「へえ、どうやって何処で決めたの?」
「そんなの知らないわよ。」 「ブ、やっぱりか。」
 言い合っているうちに魚屋に着いた。 玄関を開けると母さんが飛んできた。
「まあまあごめんね。 香澄が我が儘で。」 「ずーーーーーっとこうだから成れてますけど。」
「あらそう? これからもよろしくね。」 香澄を無事に送り届けた俺は夜道を帰るのであります。
街灯もそんなに明るくなくて女一人じゃ危ないなって思うこの道、、、。 歩いてみるとけっこう有るなあ。
 車が走り去っていった。 ハチロクだねえ。
いやあかっこいい‼ でもやっぱフェアレディーのほうが好きだな。
2000gtもかっこういけどさあ。 rx-ⅶもいいよなあ。
うーーーーん、ミニカーでもいいから欲しいわ。 どっかで犬が泣いている。
一人で歩く夜道はなんかおっかない。 香澄でもいいから傍に居てくれ!
 のんびり歩いているとどっかで見たような顔が俺に近付いてきた。 「オー、吉田じゃないか。 何をしてるんだ?」
(ゲ、久保山先生じゃないか。) 「いやあ暇潰しに歩いてただけですよ。」
「その方向は魚屋だな?」 (ギク、、、。)
「まあ悪いことはしないでさっさと帰るんだぞ。」 「はーーい。」
返事だけは可愛くしてまた歩き出すんだ。 そしたら電話が掛かってきた。
 「ねえねえ弘明君。 明日は何か予定有るの?」 「なーーーーんんにもねえけど。」
「私も何にも無いのよ。 どうしたらいいかなあ?」 「俺に聞いたって知るかよ。 馬鹿。」
「また私を馬鹿にしたなあ? 泣いてやるぞーーー。」 「勝手に泣いてくれ。」
そう言うと香澄は本気で泣き始めた。 (泣き出すと長いんだよなあ。)
そう思った俺は電話を切って家へ急いだ。