俺の彼女は高校教師

 凸凹な学生生活を送っている俺たちですが、それでも何とか3年の1学期を終わりました。 長かったなあ。
英語やら数学やら何人かは追試を受けまして命からがら助けてもらったって感じ。 これには美和も苦しいような悲しいような顔をしてます。
 そんな最初の日曜日、夏休みに入ったばかりの俺はまたまた美和のマンションに来ております。 いつものように商店街で待ち合わせて裏道を突っ走ってここまで来たんですわ。
今日は念願叶っての焼き肉を食べる日。 あの夢雨ちゃんも楽しそうに美和と話してますねえ。
 「今日はスマホ禁止だからね。」 「何で?」
「だってせっかくの雰囲気が台無しになるじゃない。」 「分かった。 分かったよ。」
「それから隠し撮りも禁止だからね。」 夢雨ちゃんは俺を見ながら釘を刺してきます。
「美和姉ちゃんだって今日を楽しみにしてたんだから分かってくれないと困ります。」 「分かったよ。」
 「まあまあ夢雨、弘明君には厳しいのねえ。」 「今から鍛えてやらないと大人になった時が可哀そうだから。」
「それはいいけど縛り過ぎないでね。」 「今のママじゃあお姉ちゃんの彼氏にはなれないわよ。」
「え? 彼氏?」 「そうなんでしょう? 初めて会った時にそんな雰囲気を感じたんだけど。」
(鋭いな、これじゃあ嘘は吐けないわ。) 「彼氏だったらもっと覚悟を持ってほしいのよ。」
「覚悟?」 「結婚するってそんな生易しいことじゃないでしょう? お姉ちゃん。」
「それはそうよね。 さあ、焼きましょうか。」 美和はなんとか夢雨の話をさえぎってホットプレートのスイッチを入れた。
 「ほんとなら炭火でやりたいのよねえ。 でもこの辺りじゃあそんな場所が無くて、、、。」 焼けてきた鉄板に肉を載せていく。
煙探知機がうるさいからって窓は全開にしてある。 見下ろしたら気が狂いそうだわ。
 美和は牛肉が好きなんだって。 でも俺は豚肉しか縁が無くてさあ、、、。
だって牛肉って高いじゃない。 それも外国産のばかり。
国産牛肉ってそんなに出回ってないよね。 何でだろう?
 夢雨ちゃんもどんどん食べてね。 今日は無礼講だから。」 「うん。 分かってる。」
俺って夢雨をじっくり見たことは無かったんだけどこうして見てみると可愛いやつだなあ。 おまけに今日はハートのブローチまで、、、。
 「弘明君もどんどん食べてね。」 「食べてるよ。」
「うーーーん、それで食べてるって言えるの?」 「え?」
「めえめえ、夢雨ちゃん 公表はいいから、、、。」 「ごめんなさい。 私って何でも観察しちゃうから、、、。」
「ごめんね。 宏明君。」 「いいよ。 別に気にしてないから。」

 その頃、香澄はというと、、、。 「りっちゃんさあ今日はどれくらい泳ぐの?」
「さあねえ。 魚じゃないから分かんないわよ。」 「へえ、秋刀魚みたいな顔してるのに?」
「ひどいなあ。 香澄だってホタテみたいな顔じゃない。」 「二人とも止してよ。 お腹空いちゃうじゃない。」
「あらら、ごめんごめん。」 そうそう、小百合も一緒になって市民プールに泳ぎに来てるんですわ。
 このプールには昔流行ったウォータースライダーが現役で動いてます。 10歳以下は利用できないんだけどね。
それに今は着水点に監視員が立ってます。 上に人が立ったのを確認したらその周辺から離れてもらうようにするんだって。
 元気な高校生なんかはフルスピードで滑ってきてバシャーンってものすごい水飛沫を上げてます。
そのたびに周りからすごい歓声が上がるんだけど、、、。 「賑やかねえ。」
「こっちでゆったり泳ぎましょう。」 「そうねえ。 私たちは魚になるのよ。」
今日も三人は仲良しでした。 差し詰め魚三姉妹ってところかなあ。
 秋刀魚に鈴木にホタテ、、、。 魚じゃないのが居る。
 それでもとにかくこの三人は仲がいいんですわ。 時々は突っ込み合いもすごいけど、、、。
(喧嘩するほど仲がいい。)っていうやつなのかなあ? 時には「レズじゃないか?」って思うくらいにくっ付いてるんだけどねえ。

 俺はというと美和と夢雨ちゃんに監視されながら焼き肉を食ってます。 なんか緊張するなあ。
そんな俺をよそに二人はさっきから楽しそう。 あいつがどうしたの、こいつがどうなったのって盛り上がってます。
 たまに「スクランブルグリーンって知ってる?」なんて夢雨ちゃんが振ってくるからドキッとする。 最近の音楽には興味無くてさ、、、。
「ごめん。 知らないわ。」 「あらそう。 宏明君ってどの年代なら興味有るの?」
「80年代かなあ。」 「おっさん。」
「ブ、、、。」 「何だよ 美和まで。」
「ごめんごめん。 あんまりにもピッタリだって思ったから。」 「ひどいなあ。 俺まだ、、、。」
「大丈夫。 高校おじんってたくさん居るから。」 「そうかもしれないけど、、、。」
 夢雨は肉を頬張りながら酎ハイをグッと飲み込んだ。 (高校おじんねえ、、、。)
美和は野菜も鉄板に載せて窓の外に目をやった。 「ねえねえ、お姉ちゃん。 お姉ちゃんさあ、弘明君の何処に魅かれたの?」
「さあねえ。 何処なんだろう?」 「なあんだ、お姉ちゃんも分かってないのか。」
「だってまだ3か月くらいだし、、、。」 「弘明君ってさあ、他に居るようには見えないよね。」
「どういうこと?」 「何か、こういうタイプの男の人って自分を表現するのが下手なのよ。 だからかな、相手にも多くを求めない人が多いの。」
(ギク、、、。 また俺の中身を観察してやがる。) 「それでもさあ、不思議と友達は多いのよ。 特に女の子。」
 俺の頭の中には香澄と律子と小百合と真紀の顔が並んでいた。 「でもね、だからって誰が好きってわけでもないの。」
「そうかもなあ。」 「つまりはさあ、誰にも決められないってことね。」
「ガク、、、。」 「え? 図星だった? ごめんなさい。」
 夢雨ちゃん ニコッとするもんだからきつく言われても憎めないんだよ。 強敵だわ。
「たぶんね、クラスの中に好きだって女の子は居るの。 でもその子とはうまくいかないわよ。」 (見抜いてやがる。)
「それで美和姉ちゃんにって思ってるんだろうなあ。 でも今の中途半端な宏明君じゃあお姉ちゃんが可哀そうだよ。」
「そこまで、、、。 夢雨ちゃん 分かったわ。 私が鍛えるから大丈夫。」 「そうかなあ? 大変だよ。」
「任せて。」 「お姉ちゃんがそれでいいなら任せるわ。」
 その後はまたまた美和と夢雨が話に夢中になっております。 俺は二人の話を聞きながらコーラを飲んでおりますが、、、。
(中途半端な男、、、、、か。) その言葉が脳味噌に突き刺さっていて抜けないみたい。
 帰り道、車の中で美和は俺の心配ばかりしている。 「ごめんね。 夢雨ちゃんってはっきり言う子だから。」
「いいんだよ。 こないだもそうだったけど、おかげでいろいろと気付けたんだから。」 「それならいいけど、、、。」
 裏道に入った所で脇に車を停めた美和は俺のほうを向いた。 その眼は前よりも萌えていた。
「私ね、やっぱり弘明君が好きなの。 前の彼氏より魅かれてるの。 信じられないくらいに。」
そう言う美和を俺は強く抱きしめた。 「早く卒業してほしい。」
肩に顔を埋めて呟く美和にそっとキスをする。 (これでいいんだよな?)
 その日は家に帰っても布団に潜り込んでも頭の中は煮えたぎってばかり。 美和のことを考えるとじっとしていられなくなるんだ。
いよいよ病気になったみたいだな。 幻が現実に変わった瞬間だった。