俺の彼女は高校教師

 寝過ごしたり降り損ねたりひっくり返ったり途中で運転を取りやめられたり、いろんなことが起きる電車に乗って今日も家に帰りましょう。
(今日は何も起きないよな?) 心配しながらいつものように窓の外を眺めております。
 電車区を通り過ぎた頃、右側の道路で何かが燃えていることに俺は気が付いた。 「あれ 何だ?」
「なあに?」 ゲームに嵌っていた香澄も顔を上げた。 「あれってさあ、車が燃えてるよね?」
「やばいじゃない。 こんな所で火事なんて、、、。」 それを聞いたのか他の客が何処かに電話を掛け始めた。
 電車はそれでも走っております。 次の駅で止まっていると上り方面に消防車が走っていく音が聞こえてきた。 「やっぱり火事だったんだ。」
この電車の沿線は右側が田園地帯と言ってもいいくらいに田んぼばかりなんだ。 その道の真ん中で車が燃えていた。
 家に帰ってくると母ちゃんもその火事のことは知ってたらしい。 「なんかさあ、田んぼの脇で車が燃えてたんだってね。」
「見たよ。 電車に乗ってる時だったから。」 「そうなの? 何も無ければいいけど、、、。」
「あの辺は周りが田んぼだからねえ。」 「だから余計に危ないんだよ。」
「何でさ?」 「何か起きても逃げられないじゃないか。」
「それもそうだね。」 母ちゃんはスマホのニュースを開いた。
 「いやいや、出てるじゃない。 あの辺りの農家の車なんだって。」 「農家の車?」
「そうだよ。 マイカーが燃えたんだって。」 「でも何であんな所で?」
「不思議だねえ。 駅の傍なんだろう?」 「誰かにやられたんじゃないのか?」
「物騒な世の中だわ。 なんまんだぶなんまんだぶ。」 母ちゃんは唐揚げを揚げながらカレンダーに目をやった。
 香澄はと言うと、こちらはこちらでスマホのニュースを見ております。 「あの火事も大変だったんだなあ。」
記事を読み進めていると、、、。 「えーーーー? 殺されたの? やだあ。」
頓狂な声を挙げてスマホを床に放り投げてしまった。 「怖い怖い。 宏明君だったらどうするだろうなあ?」
そんなことを考えていると眠れなくなってしまったのであります。 翌日が大変。

 その翌日は1時間目から数学です。 香澄は欠伸をしながらノートと格闘中。
美和はニコニコしながら机の間を行ったり来たり。 時々、俺のノートを覗いては「フフ。」って意味深な笑いを残すのです。
香澄は眠気を抑えるのに必死になってますが、とうとう寝てしまいました。 それを見付けた小百合がシャーペンで脇を刺すと、、、。
「キャーーーーーーー‼」ってみんなが驚くような大声で吠えました。 おかげでみんなは大爆笑。
終いには美和も吹き出してしまって怒れなくなってしまったようですわ。 やらかしちゃったなあ。
 「香澄、どうしたのよ?」 「昨日の火事のニュースを読んでたら寝れなくなっちゃって、、、。」
「嘘だろう。 本当は弘明君に告った夢を見て寝れなくなったんじゃないの?」 「そうだと良かったんだけど。」
「俺はめっちゃ困るけどなあ。」 「いっつも寝てるあなたが?」
「最近は寝てないだろう?」 「そうねえ。 高橋先生に代わってから寝なくなったわねえ。 どうして?」
「それはね、高橋先生を愛してるからよ。」 「えーーーーーーーー?」
 小百合がお惚けを披露するものだからみんなはまたまた大爆笑してしまった。 まったくもう、、、。
その日も昼休みになると俺はいつものように図書館にやってきた。 前の廊下を歩いていたら美和が追い掛けてきた。
 「香澄ちゃん 何か有ったの?」 「昨日さあ、電車から火事が見えたんだよ。 そのニュースを読んでたら寝れなくなったんだって。」
「そっか。 宏明君と何か有ったのかって心配したわよ。」 「やらかすのはいつものことだから。」
「そうかもしれないけど心配するじゃない。」 「あいつはバッファローみたいなやつだからなあ。」
「そういえば『弘明君が好きなんです。』ってメールしてきてたっけ。」 「美和にもしたの?」
「返事に困っちゃってさあ。」 (生徒のメールに困る先生も初めてだな。)
 話しながら中に入る。 そしていつものように本を取り出して並んで座る。
今日は誰も来ないらしい。 しんと静まった図書館の中でページを捲る音だけが聞こえている。
 誰も来ないと分かると美和は俺にくっ付いてきた。 「やめなって。」
「いいじゃない。 今日は誰も来ないんだから。」 「って言っても司書室に、、、。」
「今日は休んでるから大丈夫よ。」 小声で話している俺たち、、、。
俺はくっ付いている太腿をそっと撫でてみた。 「うーん、擽ったい。」
 だからって美和も俺の太腿を撫でてくる。 何やってんだ 俺たち?
 教室では香澄と律子がさっきから話し込んでるみたい。 「昨日さあ、火事すごかったんだよ。」
「そんなにすごかったの?」 「そういえばニュースで見たっけなあ。」
「あの車に乗ってた人、殺されたらしいんだ。」 「マジ? やばいじゃん。」
「それを読んだもんだから寝れなくなっちゃってさあ。」 「そんな時は弘明君を呼ぶのよ。 優しくしてーーーーーーって。」
「でもさあ最近は優しくないのよね。」 「前からじゃん。」
「そうだけど最近は、、、。」 「香澄が甘過ぎるのよ。 仕込んでやんなきゃ男なんて変わらないんだから。」
「そう言うけどさあ、、、。」 「弘明君の前で脱いじゃいなさいよ。 そしたらいくら宏明君でも気付くんじゃないの?」
「そうかなあ?」 香澄は眠そうな目をこすりながら考え込んでしまった。
 図書館では、、、。 俺と美和は足を絡めたりして大人になっております。
学校で何をしてるんだろう、俺たち。 そう考えないわけでもないけど本を閉じた俺は美和を抱き寄せてみた。
「こうして一緒に暮らしたいなあ。」 聞こえないように言ったはずなのに美和ははっきりと聞いていた。
 元々化粧の薄い美和のこと。 ポーっとしているのがよく分かる。
何だか熱い空気が俺たちを包んでいる。 燃えそうだなあ。
と、昼休み終了のチャイムが鳴った。 「雰囲気ぶっ壊れちゃったね。」
「また部屋に遊びに来てよ。」 「そうだね。 もっと話したいし。」
「それだけ?」 「って何か有るの?」
「うーーーん、まあいいか。」 美和は何かを言い淀んで席を立った。
 午後は午後でまたまた大騒ぎの連続ですわ。 満腹の後の国語だから眠くて眠くて、、、。
欠伸をするたびに出席簿の門でゴンとやられるんだ。 痛いのなんの、、、。
 次は社会。 これまた眠いのなんのって。
授業が終わると途端にみんな元気になりまして大騒ぎを始めます。 the いつものこと。
 「ねえねえ弘明君。 たまには一緒に帰ろう。」
バス組の小百合が俺に絡んできた。 「何で小百合なの?」
「そんなこと俺に聞くなよ。 馬鹿。」 「もう。 何で私じゃないの?」
「お前とはいつもいつも喧しいくらいにくっ付いてるだろう? それに電車の中だって一緒なんだからいいじゃんか。」 「意地悪ーーーーー。」
「ねえねえ香澄ちゃんも一緒に帰ろうよ。」 「う、うん。」
「何だ? 俺には噛み付いておいて小百合の言うことは聞くんだなあ。」 「だって彼女ですから。」
「私の?」 「じゃじゃじゃじゃ、じゃないってば。 小百合。」
「なあんだ。 レズ誕生かって思ったら違ったのねえ? 面白くないなあ。」 「りっちゃん それは違うって。」
「香澄と小百合ならお似合いよ。 デートしてもいいんじゃない?」 「りっちゃん そう思う?」
「お似合いだもん。 そう思うわよねえ。 みんな?」 律子がみんなに聞いてくる。
「いいんじゃないかなあ? 小柄な小百合とボインの香澄なら合うわよ。」 「決定ね。 おめでとう。」
なんだか不思議な雰囲気になってきたぞ。 小百合は赤くなってるし香澄は目を逸らそうとしてるし、、、。
何ていうクラスなんだよ? 馬鹿の次はレズ?
 そんなもんだから帰り道もなんか空気が重たくて、、、。 と思ったら香澄と小百合がくっ付いてる。
俺は空を見上げながら夏休みのことを考えている。 (美和と海にでも行きたいなあ。)
 「ねえねえ弘明君。 明日さあ、、、。」 香澄の声が聞こえるんだけど俺はどっか上の空。
「聞いてよ!」 「いてえ!」
無視していたら思い切り拳骨が飛んできた。 誰かみたい。
 「何だよ?」 「話を聞いてなかったでしょう?」
「小百合とくっ付いてるからそれでいいのかと思って。」 「あのねえ、私はレズじゃないのよ。」
「お似合いだぜ。 お嬢様。」 「だからさあ、、、。」
 困惑している香澄を見ながら小百合はクスクスと笑っている。 「ひどいなあ 小百合まで。」
「ごめんごめん。 あんまりおかしいもんだから。」 「そうよ。 おかしいのよ 私たち。」
「こらこら俺まで一緒にするなよ。」 「似た者同士だもんねえ。 私たち。」
「私たちじゃないってば。」 「お二人さん お似合いよ。 また明日ね。」
「ほらほら小百合も認めてるじゃない。 お似合いなのよ 私たち。」 「自分で言うなっての。」
「ただなんだからいいじゃない。」 「5万円貰いますけど。」
「えーーーーーー? 彼女からお金取るの? ひどーーーーい。」 「騒ぎ過ぎだってばよ。」
「騒がせるのは誰なのよ?」 「お前だろう。」
「あのねえ、、、。」 「ほら、電車来たぞ。」
「ワワワ、置いてかないでよーーーーー。」 まったく、何をしたいのか分からないお嬢様には困ったものですわ。