俺の彼女は高校教師

 今日はうんざりしそうな一日になりそうだ。 香澄のやつ、俺の上にドッカと載ってやがったからなあ。
その感触が今でも消えないんだ。 なんとかしてくれよ。
 「さてさて1時間目は社会ですわね。 弘明君?」 「無視。」
「えーーーー? 彼女が聞いてるのに無視するの? 冷たいなあ。」 「寝てる間に俺の上に載ってくるような女が彼女とはねえ。」
「ワワワ、それは言わないの。 やめてよ。」 「どうしたの? 香澄が弘明君の上に載ったって?」
「違うの違うの。 夢を見たのよ。 ねえ、弘明君?」 「あれが夢ねえ。」
「ちっとはあたしを守ってよ。 彼女なんだから。」 「正彦にでも守ってもらったら?」
「俺は嫌だよ。 こんなブス。」 「ワー、どいつもこいつもひどいなあ。 恨んでやるーーーーー。」
「どうぞ ご自由に。」 「やられたなあ。 香澄様。」
「何よ? 安藤君まで。」 「あいつに載ったんだって? 不純異性交流は厳禁なんだけど、、、。」
「ワワワ、そんなんじゃないんだもん。 違うんだもん。」 こうして香澄は一日中荒れまくるのでありました。

 その日の放課後、昇降口を出ると香澄が走ってきた。 「置いてかないでよーーーーーー!」
「何だ、残るのかと思ったら、、、。」 「ひどいわねえ。 居残りなんてしないわよ あたしは。」
「そんなに頭良かったっけ? 年度末の数学 見事な赤点だったじゃない。」 「過ぎたことは言わないの。 さあ帰りましょう。」
「調子のいいやつだなあ。 また俺んちに泊まる気か?」 「こんな所で言わないでよ。 校長先生にも聞こえるでしょう?」
「いやあ、君たちは仲がいいねえ。」 そこへ教頭の北村先生が歩いてきた。
「ははは、幼馴染なんです。」 「そうか。 でもまだ異性交流は早いからな。 気を付けろよ。」
 教頭は香澄に釘を刺すと昇降口に入っていった。 「見なさい。 教頭先生に聞かれたじゃない。 責任取ってよね。」
「なに? 子供産ませろってか?」 「そんなんじゃないわよ。 馬鹿。」
「ほらほら、お前だって俺を相当に馬鹿呼ばわりしてるじゃん。」 「私はいいの。 王女様なんだから。」
「へえ。 お前がねえ? どう見ても貧しい綿農家の末娘って感じにしか見えないけどなあ。」 「いいの。 シンデレラになるんだから。」
「ほんとに思ってる?」 「うーーーーーん、微妙だけどねえ。」
「これだからこいつは掴みどころが無いんだ。 困るよなあ こんなんじゃあ。」 「いいんだもん。 弘明君がなんとかしてくれるから。」
そう言って香澄は何処までも付いてくる。 夢見女の妄想が始まったらしい。
 俺はそんな香澄のことなど気にも留めずにコンビニへ入っていった。 香澄はボーっとした頭で付いてきているが、、、。
ドアが閉まったのには気付かずに顔から衝突してしまった。 「いたーーーーーーい。」
 その声に店員も一度だけ振り向いた。 「なんだ、自分でやったのか。」
こんなことはよく有るらしい。 自動ドアだと勘違いして外人も衝突するんだそうで、、、。
 コンビニとかスーパーとか言うと自動ドアってイメージが有るけど、中にはそうじゃない店だって有るんだよなあ。 子供だって時々走ってきてそのまま衝突して泣いてるやつが居る。
俺が最中を買って出てくると香澄が半泣きの顔で追い掛けてきた。 「待ってよーーーー。」
「待たないもん。 意地悪な香澄なんか嫌いなんだもん。」 「待ってよ 待ってったらーーーーー!」
「謝ったら待ってもいいんだぞ。 さあどうする?」 「謝るから待ってよーーーー!」
 やっとの思いで追いついた香澄は側溝の蓋の上に土下座した。 「申し訳ありませんでした。」
「おいおい、そこまでやるか?」 「だって弘明君が言うから。」
「分かった分かった分かった。 もういいから。」 「ほんとにいいのかなあ?」
「知らねえよ。 馬鹿。」 「うわ、また私を馬鹿にした。」
飛び掛かろうとしていた香澄の目の前に最中を差し出す。 「あ、ありがと。」
「現金なやつ。」 「何か仰いました?」
「何も言っておりませんが、、、。」 「現金なやつだって言ったわよね?」
(ゲ、こいつ聞いてやがる。) 「しっかり聞こえましたわよ。 お兄さん。」
「何も言ってねえってばよ。」 「言ったでしょう?」
「香澄ーーーーーー、何してんのーーーーー?」 「うわ、りっちゃんだあ。 逃げろーーーーー!」
 補習を受けていた律子が走ってきたのを見付けて香澄は慌てて逃げていった。 「おかしいなあ、香澄。」
「どうかしたのか?」 「香澄さあ、この頃は私から逃げてるのよ。 何か有ったのかなあ?」
「あいつも春なんじゃないのか?」 「春?」
「ああ。 やたらと俺にぶら下がってるし噛み付いてくるし春なんじゃないのか?」 「春ねえ。」
 中学の頃、あいつが俺にラブレターを寄越したことが有る。 そっと見て押し入れの奥に放り込んだんだけど、、、。
だからさ、俺もあいつに好かれてることは百文も承知なんだ。 ただ興味が無いだけ。
子供の頃は風呂にだって一緒に入ったよ。 「友達なんだからいいだろう。」ってね。
 さすがに5年生くらいから一緒に入らなくなったけどさあ。
そんなあいつが俺の上に乗っかってくるからさすがに冷や汗物だぜ。 あの顔でやらかしてくれるんだからなあ。
おまけに自分じゃあスタイルがいいって思い込んでるらしい。 そりゃあ見方によってはすごーーーーーく可愛く見えるらしいけど、、、。
 ちなみにあいつはcカップだって言ってたな。 大きさ何か俺は興味無いのに。
ニュースを見ていたらmカップなんてやつが居るんだなあ。 持ち運ぶのも大変だろうに。
 どうでもいいけどさあ大きいとか小さいとかそんなんはどうでもいいだろう? 胸が大きくても人間的にだらしなかったら救いようが無いぜ。
美容整形をいくらやってもダメな物はダメなの。 骨から入れ替えないとさ。
表面だけ繕ってみても中身がパッパラパーじゃあ使い物にならねえよ。 それが証拠に巨乳アイドルは脳が無いじゃん。
美人でも中身がさっぱりじゃあ価値は無いね。 そう思うよ お姉さん。
 駅まで来ると香澄は何も無かった顔で最中を食べている。 「香澄ちゃああああん。」
「うわ、来た。」 「何よ? どうして逃げるのかなあ? 香澄ちゃん。」
「だってだってだって、、、。」 「いいわ。 後でメールするから。」
 律子が反対側のホームに行ってしまうと香澄はやっと落ち着いた顔になって背伸びをした。 「何なんだよ お前は?」
「私? 私は香澄よ。」 「そうじゃなくてだなあ、、、。」
「なあに?」 「だから何で律子から逃げてんだ?って聞いてんの。」
「今は言えないわ。 ウフフ。」 「アホか こいつは。」
「アホでも何でもいいわ。 弘明君の傍に居られたらそれだけでいいの。」
「へえ。 じゃあお前の大嫌いな片山さんを連れてこようかなあ。」 「やだやだあんなの、、、。」
「あんなの? 明日にでも会うから言っといてやるね。」 「ワワワワ、それはやばい。 殺されるじゃない。」
「大げさだなあ。 お前なんか殺したって何にもならねえよ。」 「ひどーーーーい。 こんなお嬢様に向かって、、、。」
「また始まったわ。 これやりだすと長いんだよなあ。」 「いいもん。 無視されたって付いていくんだもん。」
 その様子を反対側のホームで見ていた律子はさっきから笑いが止まらなくて電車を乗り損ねてしまった。 「ああもう、、、。」
香澄はそれにも気付かずに夢を見続けているようですけど、、、。