「ご乗車の皆様にお知らせいたします。 当電車は現在地にて運転を終了することに致しました。 つきましては代わりの交通機関をご利用の上、到着地まで行かれますようお願い申し上げます。
また後日にはなりますが当電車の運賃を払い戻しさせていただきますので駅をご利用の際に駅員にお申し付けください。 本日は大変にご迷惑をおかけいたしました。」
車内にアナウンスが流れ、乗客たちは溜息を吐きながら電車から降り始めた。 「やっと降りれるのね。」
香澄もイライラしながらドアから降りていった。 駅前には呼び集めたらしいタクシーが並んでいる。
俺はタクシーを横目に見ながらバス停へ急いだ。 タクシーに乗るほどの金は持ってないから。
自国は午後0時38分。 何とも中途半端な時間だ。
バスに乗った俺は椅子に座ると窓に顔を付けてぼんやりしている。 何か疲れちまったらしい。
事故なんて遭遇するのも初めてだしトラックが潰れてるのを見たのも初めてだ。 ボーっとしているとふと思った。
(高橋先生ってどんな女なんだろう?) 新任の教師は他にも何人か居た。
それぞれに個性的な感じの先生だった。 はずなのに今の俺には高橋先生しか見えていない。
何処となく天然そうでどことなくうるさそうな、、、。 それでいて優しそうにも見える。
(大学院に行ってたって聞いたよな。 大学院で何をしてたんだろう?) 人って謎が多いほど興味を持つんだね。
俺は初めての授業が楽しみになってきた。 今までこんなことは無かったぞ。
去年も新任の教師は何人も居たはず。 しかしこれといって印象に残る人は居なかった。
その前にも居たはずなのに覚えてさえいない。 なのに美和は、、、。
バスは住宅街を抜けていく。 時々反対側のバスが擦れ違っていく。
駅を離れると小学校が見えてくる。 俺も通った今谷川小学校だ。
その向かい側に中学校も在って賑やかだった。 運動会には互いに交流したもんだ。
中学校を過ぎると川を渡る。 そしてあの坂を上るんだ。
坂を下りたら俺の家の近くってわけだよ。
「間もなく寺崎口、寺崎口でございます。 お降りの方はお知らせください。」 アナウンスが聞こえて俺はボタンを押した。
降りてみるとそこは昔ながらの家が残っている古い町である。 路地の角にはコンビニが在るけれど。
コンビニの角を曲がって路地に入る。 この辺ではまだまだ道路で遊んでいる子供たちが居る。
いくつか横道を過ぎて右に折れる。 塀越しに桜の木が見えたら俺の家だ。
桜はもう咲いてしまって葉桜になっている。 今年も早かった。
昔よりは暖かくなってるんだねえ。 玄関の鍵を開ける。
母さんたちはまだまだ帰ってこない。 だから俺は一人で昼飯を食べるんだ。
ご飯はいつも炊いてある。 鍋には昨日のおかずが残っている。
それを食べながらやっぱり美和のことを考えている。 (大学院へ行ってたってことは、、、26歳か? 八つ上だな。)
ということは姉の康子と同い年ってことになる。 そうか、そうなのか。
昼飯を食べ終わると部屋に籠る。 遊びに来るようなやつも居ない。
カバンを投げ出して椅子にドッカと座る。 ふと思い出したようにスマホを取り出す。
そして何気なくリダイヤル。 ゆかりが出た。
「何か用か?」 「何か用かは無いでしょう? 何回も掛けてるのに、、、。」
「しょうがねえだろう。 電車に乗ってたんだから。」 「もういいわ。 用事終わったから。」
「心配させといて冷たいやつだなあ。」 「どっちがよ?」
「いいや。 続きは明日ね。」 「ああ、待って待って。」
話したそうなゆかりの声を聴きながら俺はスマホを切った。
YouTubeを検索してみる。 好きな音楽を聴こうか。
「ただいま!」 母さんの元気な声が聞こえた。
YouTubeを見ながらいつの間にか寝てしまったらしい。 慌てて目を覚ました俺はスマホを切って部屋を出た。
「おやおや、帰ってたのかい? けっこうな事故だったんだってねえ?」 「そうだよ。 ガチャーンってものすごい音がしたんだから。」
「見たよ。 帰る途中に踏切を見てきたんだ。 すごかったねえ。」 「明日は通れるかな?」
「もう処理は終わってるから大丈夫じゃないの?」 「そっか。」
母さんはささくさと台所に入っていった。 「今夜は何にしようかなあ?」
夕食を作り始めた時、玄関のチャイムが鳴った。 「弘明、出てくれるかい?」
「あいよ。」 軽い返事をして俺は玄関へ、、、。
そしてドアを開けた時、俺は目を疑った。 そこに立っていたのは美和だった。
「こんばんは。 早苗さんはいらっしゃいますか?」 「ああ、居ます。 母さん!」
俺は台所にすっ飛んで行った。 「どうしたんだい? そんなに慌てて。」
「高橋先生が来たんだ。 高橋先生が、、、。」 「高橋先生? ああ、美和ちゃんか。」
「知ってるの?」 「知ってるも何も、、、。 古くからの友達の娘さんだよ。」
母さんは鍋の火を止めると玄関へ歩いてきた。 「あらあら、よく来たねえ。」
「お久しぶりです。 今度隆縄高校で働くことになったんで挨拶に来ました。」 「そうかい。 息子も3年生だからよろしくね。」
「息子さん?」 「そうそう。 さっき玄関に出たろう?」
「あの人が息子さんですか? どっかで見たなと思ったんですけど、、、。」 「ままま、お入りよ。」
そんなわけで高橋先生も食堂に入ってきた。 俺の隣に座ったのはいいけれど何か緊張するなあ。
「弘明、何緊張してるの?」 「だって、、、。」
「ああ、美和ちゃんならまだまだだよ。 お前もしっかり鍛えてもらうんだね。」 「よろしくお願いします。」
ペコリと頭は下げたものの言葉が出てこない。 すっかり舞い上がってしまっている。
そんな俺と美和がまさか、、、、、なあ。
母さんたちが盛り上がっているところに父さんも帰ってきた。 「おー、美和ちゃんか。 どうしたんだ?」
(ゲ、親父も知ってるのか?) 「今年から隆縄高校で働くことになったもんですから、、、。」
「そうかそうか。 隆縄といえば弘明が通ってる高校だよなあ?」 そう言いながら父さんは俺の顔を覗き込む。
「弘明もしっかり鍛えてもらえよ。 美和ちゃんに。」 「うん。」
「どうしたんだよ? 元気無いなあ。」 「弘明ね、、、。」
「わわわわ、いいからいいから。」 母ちゃんが俺と美和の顔を覗きながら話し始めたもんだからそれを遮って部屋に飛び込んでしまった。
「あいつ、ほの字だな。」 それを聞いて母ちゃんもニヤニヤしているらしい。
「弘明君も面白い人ですね。」 「そうか? これからよろしく頼んだぞ。」
「分かりました。 ではこれで、、、。」 美和が帰った後、父さんが俺の部屋に入ってきた。
「美和も帰ったぞ。 飯だ。」 「分かったよ。」
「お前、惚れてんのか?」 「誰に?」
「美和ちゃんだよ。」 「さあねえ。 チラッと会っただけだから。」
「まあいい。 しっかり教えてもらえよ。」 父さんはニコニコしながら箸を取った。
また後日にはなりますが当電車の運賃を払い戻しさせていただきますので駅をご利用の際に駅員にお申し付けください。 本日は大変にご迷惑をおかけいたしました。」
車内にアナウンスが流れ、乗客たちは溜息を吐きながら電車から降り始めた。 「やっと降りれるのね。」
香澄もイライラしながらドアから降りていった。 駅前には呼び集めたらしいタクシーが並んでいる。
俺はタクシーを横目に見ながらバス停へ急いだ。 タクシーに乗るほどの金は持ってないから。
自国は午後0時38分。 何とも中途半端な時間だ。
バスに乗った俺は椅子に座ると窓に顔を付けてぼんやりしている。 何か疲れちまったらしい。
事故なんて遭遇するのも初めてだしトラックが潰れてるのを見たのも初めてだ。 ボーっとしているとふと思った。
(高橋先生ってどんな女なんだろう?) 新任の教師は他にも何人か居た。
それぞれに個性的な感じの先生だった。 はずなのに今の俺には高橋先生しか見えていない。
何処となく天然そうでどことなくうるさそうな、、、。 それでいて優しそうにも見える。
(大学院に行ってたって聞いたよな。 大学院で何をしてたんだろう?) 人って謎が多いほど興味を持つんだね。
俺は初めての授業が楽しみになってきた。 今までこんなことは無かったぞ。
去年も新任の教師は何人も居たはず。 しかしこれといって印象に残る人は居なかった。
その前にも居たはずなのに覚えてさえいない。 なのに美和は、、、。
バスは住宅街を抜けていく。 時々反対側のバスが擦れ違っていく。
駅を離れると小学校が見えてくる。 俺も通った今谷川小学校だ。
その向かい側に中学校も在って賑やかだった。 運動会には互いに交流したもんだ。
中学校を過ぎると川を渡る。 そしてあの坂を上るんだ。
坂を下りたら俺の家の近くってわけだよ。
「間もなく寺崎口、寺崎口でございます。 お降りの方はお知らせください。」 アナウンスが聞こえて俺はボタンを押した。
降りてみるとそこは昔ながらの家が残っている古い町である。 路地の角にはコンビニが在るけれど。
コンビニの角を曲がって路地に入る。 この辺ではまだまだ道路で遊んでいる子供たちが居る。
いくつか横道を過ぎて右に折れる。 塀越しに桜の木が見えたら俺の家だ。
桜はもう咲いてしまって葉桜になっている。 今年も早かった。
昔よりは暖かくなってるんだねえ。 玄関の鍵を開ける。
母さんたちはまだまだ帰ってこない。 だから俺は一人で昼飯を食べるんだ。
ご飯はいつも炊いてある。 鍋には昨日のおかずが残っている。
それを食べながらやっぱり美和のことを考えている。 (大学院へ行ってたってことは、、、26歳か? 八つ上だな。)
ということは姉の康子と同い年ってことになる。 そうか、そうなのか。
昼飯を食べ終わると部屋に籠る。 遊びに来るようなやつも居ない。
カバンを投げ出して椅子にドッカと座る。 ふと思い出したようにスマホを取り出す。
そして何気なくリダイヤル。 ゆかりが出た。
「何か用か?」 「何か用かは無いでしょう? 何回も掛けてるのに、、、。」
「しょうがねえだろう。 電車に乗ってたんだから。」 「もういいわ。 用事終わったから。」
「心配させといて冷たいやつだなあ。」 「どっちがよ?」
「いいや。 続きは明日ね。」 「ああ、待って待って。」
話したそうなゆかりの声を聴きながら俺はスマホを切った。
YouTubeを検索してみる。 好きな音楽を聴こうか。
「ただいま!」 母さんの元気な声が聞こえた。
YouTubeを見ながらいつの間にか寝てしまったらしい。 慌てて目を覚ました俺はスマホを切って部屋を出た。
「おやおや、帰ってたのかい? けっこうな事故だったんだってねえ?」 「そうだよ。 ガチャーンってものすごい音がしたんだから。」
「見たよ。 帰る途中に踏切を見てきたんだ。 すごかったねえ。」 「明日は通れるかな?」
「もう処理は終わってるから大丈夫じゃないの?」 「そっか。」
母さんはささくさと台所に入っていった。 「今夜は何にしようかなあ?」
夕食を作り始めた時、玄関のチャイムが鳴った。 「弘明、出てくれるかい?」
「あいよ。」 軽い返事をして俺は玄関へ、、、。
そしてドアを開けた時、俺は目を疑った。 そこに立っていたのは美和だった。
「こんばんは。 早苗さんはいらっしゃいますか?」 「ああ、居ます。 母さん!」
俺は台所にすっ飛んで行った。 「どうしたんだい? そんなに慌てて。」
「高橋先生が来たんだ。 高橋先生が、、、。」 「高橋先生? ああ、美和ちゃんか。」
「知ってるの?」 「知ってるも何も、、、。 古くからの友達の娘さんだよ。」
母さんは鍋の火を止めると玄関へ歩いてきた。 「あらあら、よく来たねえ。」
「お久しぶりです。 今度隆縄高校で働くことになったんで挨拶に来ました。」 「そうかい。 息子も3年生だからよろしくね。」
「息子さん?」 「そうそう。 さっき玄関に出たろう?」
「あの人が息子さんですか? どっかで見たなと思ったんですけど、、、。」 「ままま、お入りよ。」
そんなわけで高橋先生も食堂に入ってきた。 俺の隣に座ったのはいいけれど何か緊張するなあ。
「弘明、何緊張してるの?」 「だって、、、。」
「ああ、美和ちゃんならまだまだだよ。 お前もしっかり鍛えてもらうんだね。」 「よろしくお願いします。」
ペコリと頭は下げたものの言葉が出てこない。 すっかり舞い上がってしまっている。
そんな俺と美和がまさか、、、、、なあ。
母さんたちが盛り上がっているところに父さんも帰ってきた。 「おー、美和ちゃんか。 どうしたんだ?」
(ゲ、親父も知ってるのか?) 「今年から隆縄高校で働くことになったもんですから、、、。」
「そうかそうか。 隆縄といえば弘明が通ってる高校だよなあ?」 そう言いながら父さんは俺の顔を覗き込む。
「弘明もしっかり鍛えてもらえよ。 美和ちゃんに。」 「うん。」
「どうしたんだよ? 元気無いなあ。」 「弘明ね、、、。」
「わわわわ、いいからいいから。」 母ちゃんが俺と美和の顔を覗きながら話し始めたもんだからそれを遮って部屋に飛び込んでしまった。
「あいつ、ほの字だな。」 それを聞いて母ちゃんもニヤニヤしているらしい。
「弘明君も面白い人ですね。」 「そうか? これからよろしく頼んだぞ。」
「分かりました。 ではこれで、、、。」 美和が帰った後、父さんが俺の部屋に入ってきた。
「美和も帰ったぞ。 飯だ。」 「分かったよ。」
「お前、惚れてんのか?」 「誰に?」
「美和ちゃんだよ。」 「さあねえ。 チラッと会っただけだから。」
「まあいい。 しっかり教えてもらえよ。」 父さんはニコニコしながら箸を取った。



