「おーーーーい、飯だぞーーーーーー。」 父さんの声が聞こえた。
いつの間にか帰ってきてたらしい。 急いで下りていくともう少しっていう所で転んでしまった。
「いってええ!」 「馬鹿だなあ。 何を浮かれてるんだよ?」
「何でもないよ。 何でもないってば。」 「まさかお前、香澄ちゃんに告白されたのか?」
「何で香澄?」 「奨学生の頃からお前たち仲良しだっただろう?」
「それはそうだけどあいつはただの友達だから。」 「ふーん、そうかなあ?」
 父さんは信じきれない顔で日本酒を飲んでいる。 「明日も大変そうだなあ。」
「何が?」 「さっきの事故さ。 議員の息子が暴走して事故ったんだって。」
「あれだけの事故なら助からないよな。」 「たぶんなあ。」
 母ちゃんはさっきから電話に追われているらしい。 事務所関係のやつらだって。
「香澄でも誰でもいいけどあんまりのめり込むなよ。 女はま、や、く、、、、なんだから。」 「え? 誰が麻薬だって?」
父さんの話に母ちゃんが食って掛かる。 「お前じゃないから心配するな。」
「でも女はって言った輪よね?」 「だからお前じゃないってば。」
 二人がやり合っている間に俺は風呂に入ろうと思って、、、。 ドアを開けたら姉ちゃんが居た。
「私の裸を見たなあ?」 「そんな妖怪みたいな顔しないでよ。」
「誰が妖怪だって?」 「喧嘩は後。 まずは服を着てよ。」
「これから入るのよ。 一緒に入る?」 「あ、ああ。」
 なぜか姉ちゃん 真理子に飲み込まれてしまった俺であります。 ド緊張しながら姉ちゃんと向かい合って湯に浸かりましょうか。
(緊張させるなよな。 ただでさえ胸がでかくてドキドキするんだから。) 「何処見てるのよ?」
「見てねえよ。」 「胸を見てたでしょう? 食べる?」
「大き過ぎて食べれません。」 「あっそう。 何だって? 大き過ぎる?」
「こんな所で角を生やすなよ。 動けないんだから。」 「怒らせたあんたが悪いのよ。 どう始末を付けてくれるの?」
「やくざよりこええや。」 「そうよ。 やくざなんて私より可愛いもんよ。」
「よく言うわ。」 「何だって? もう一回言ってみな。」
「何も言ってませんけど、、、。」 「よく言うわって言ったでしょう? こら!」
「マジで聞いてやがった。」 ゴン!
後ろを向いた姉ちゃんが洗面器を落としてきた。 「いてえなあ。」
「変なことを言うからよ。」 脱衣所に行く姉ちゃんを後ろから見ていた俺は思わず飛び付いてしまった。
「弘明も溜まってるのねえ?」 「何がだよ?」
「そろそろ彼女くらい捕まえなさい。」 笑って姉ちゃんはさっさと行ってしまった。
(ちきしょうめ、これじゃあ消化不良だぜ。) 肩透かしを食らった気分で俺は部屋に戻ってきた。
そして美和のアドレスにメールしてみたんだ。 間違ってないよな?

 『お試しのメールでーーーーす。 間違ってたら返事下さーーーーい。』

 (これで来るかなあ?) そしたら、、、。

 『間違ってないから返事できないわよ。 ウフ、。』
なんて返信してきた。 遊び心万歳だぜ。
 そんなわけでますます寝れなくなっちゃうぼくなのでした。 気持ち悪いってば。
 次の日は金曜日。 今日も朝から数学なんだ。
「では今日もよろしくお願いします。」 美和がお辞儀をする。
俺はその旨に釘付けになっている。 と思ったら出席簿が飛んできた。
 もがいている俺をよそ目に美和は涼しい顔で授業を進めていくんだ。 こんち🌲しょうめ、、、。
授業が終わると早速律子たちがあれこれと囃し立ててきた。 「今日もやられちゃったわねえ。 何をしてたの?」
「何もしてねえよ。」 「うっそだあ。 何もしなかったらあそこまでやらないわよ。 ねえ、孝則君。」
「そう思います。」 「素直でよろしい。」
「だから何が言いたいんだよ?」 「彼女はここに居るんだから他の人には手を出さないで。」
「お前だって俺のことを言えるかよ?」 「何もしてないもーーーん。」
「ぶりっ子は似合わねえぞ。」 「鰤じゃないもん。 イルカだもん。」
「魚屋だからって分かんねえようなギャグ言うんじゃないよ。」 「凡人のあなたには分からないのよ。」
「そうですねえそうですねえ。 分かりませんねえ。」 「そこで勝手に踊ってなさい。」
「ワーオ、香澄にやられてやんの。」 「いいじゃないか。 たまにはやられてやらないとな。」
「たまにはって何よ? たまにはって?」 「玉ってこれじゃないの?」
「清水君 あんたいつから変態になったのよ?」 「おらおら、次は音楽だぜ。 騒がないうちに行かねえとうるせえぞ。」
「うわーーーー、そうだった。」 慌てて教室を飛び出すクラスメートに揉みクシャにされる俺でした。
 昼休みになっても飽きない連中は美和にやられた俺のことをあれこれと囃し立てている。 うざい連中だぜ まったく、、、。
ささくさと弁当を食べちまって図書館に籠って本を読んでいると、、、。 「図書委員会をします。 委員の皆さんは図書館に集まってください。」っていう放送が聞こえた。
 (あいつらが来るんじゃあゆっくりとは読めないな。) 読んでいた本を棚に戻して出ようとすると、、、。
「弘明君 帰っちゃうの?」って言いながら美和がやってきた。 「図書委員会が有るから、、、。」
「大丈夫よ。 委員会は司書室でやるんだから。」 「そう? でも、、、。」
 「私のことを気にしてるのね?」 「そういうわけじゃ、、、。」
「奥のほうだったら見えないわよ。」 ニコッとしてくる美和に押し戻されちまったぜ。
 それでまた棚から本を引き出して二人で並んで読み始めた。 (これじゃあいつもより緊張するなあ。)
緊張したまま読んでいると美和が小声で言ってきた。 「スマホ持ってる?」
「有るよ。」 「じゃあマナーモードにしておいて。」
美和がいたずらっぽく笑っている。 (何をする気なんだろう?)
 しばらくして美和が俺の肩をポンと叩いたからスマホを覗いてみた。 すると、、、。
砂浜で寝転ぶビキニ姿の写真が、、、。 (またまたやりやがったな。)
 俺が焦っているのを横目で見ながら美和はクスクス笑っている。

 『お姉さん 趣味悪いよ。 未成年の男にこんな写真見せないで。』

 そう送り返したら涙マークのメールを送ってきた。
(この野郎、、、。 俺の心臓を鷲摑みにしやがって、、、。) 始業式の時に感じたあのドキドキは嘘じゃなかった。
何とか冷静を装いながら本を読んでいるんだけど足が触れてくる。 そのたびに飛び上がりたい気分になる。
 手前のほうでは委員会も終わったらしく静けさが戻ってきた。 「弘明君も可愛いとこ有るのねえ。」
不意に話し掛けてくるもんだからドキドキが爆発しそうだ。 「あはは。 真っ赤になってる。」
「そりゃなるよ。 こんな写真見せられたら、、、、。」 「初心なのねえ。」
「そんなんじゃねえってば。 俺ってまだまだ高校生なんだから。」 「もう高校生でしょう?」
「いや、だから、つまり、、、。」 「いいのよ。 私だってまだまだ教師を始めたばっかりなんだから。」
「先生も趣味悪いなあ。」 「だから二人だけの時は、、、。」
美和が悲しそうな眼をするもんだから言いかけた言葉をグッと飲み込んで、、、。 互いの芽を見詰め合った時、昼休み終了のチャイムが鳴った。
 「さあて掃除しようかなあ。」 美和は固まっている俺を残してモップを取りに行った。
「さあ弘明君もお掃除よ。」 またまた耳元で囁くもんだからくすぐったいのなんの、、、。
机を拭きながら美和の長い髪を引っ張ってみる。 「やったなあ こらーーーー!」
モップを持って追い掛けてくる美和とじゃれながら掃除をするなんて、、、。

 その日も放課後になりましていつものように俺たちはささっと昇降口へ出てきた。 この前の通りにはキンモクセイが植えられているんだ。
時々、ここで写真を撮ってるやつも居るくらい。 いつ頃から生えてるんだろうなあ?
「弘明君 行くわよ。」 「分かった。 分かったから叫ぶなよ。」
「叫ばないと来てくれないじゃない。」 「お前の彼氏じゃないからなあ。」
「ひどーーーーい。 高橋先生のほうがいいのねえ?」 「そうだ。 いやいや何を言わせるんだよ?」
「白状した。 高橋先生にぞっこんだあ。」 「だから違うってば。」
 逃げる香澄を追い掛ける。 そんな俺たちを律子は呆れたように見ている。
(仲いいんだからなあ。 あの二人。 あれで恋人じゃないってのはどうなのよ?) 解けない謎。