授業が終わると帰宅組はさっさと教室を出ていく。 昇降口で2年の滝沢義一に呼び止められて話し込んでいると、、、。
「弘明君 置いて行っちゃうよーーーーー。」って香澄の声が聞こえた。 「じゃあ行くわ。」
話を終わらせて俺も外へ出る。 雨でも降りそうな雲行きだなあ。
「ねえねえ、高橋先生の何処を見てたの?」 「ギク、、、。」
不意に香澄が聞いてきた。 「どっこも見てませんけど、、、。」
「あの驚きようは何処か見てたのよねえ? そうでしょう? 弘明くーーーん?」 「嫌な聞き方するなあ。」
「だって彼女としては気になるんだもん。」 「お前が彼女だって? 1万年早いわ。」
「ひどーーーい。 小学生の頃から好きだったのにーーーーーー。」 香澄が拗ねた声で泣き真似を始める。
「可愛くないぞ。 泣いたって。」 「ひどーいひどーい。」
「香澄ちゃん あんなのほっときましょうよ。」 律子が俺を睨んでくる。
「嫌なやつらだなあ。 連合軍か。」 「そうよ。 あたしたちは一進一退なの。」
「は? それを言うなら一心同体だろう? バカ。」 「またまたレディーをバカだって。」
「お前の何処がレディーなんだよ? 自意識過剰だってば。」 「いいからいいから行きましょう。 香澄ちゃん。」
苛立った律子が香澄をかばうように先へ歩いて行った。 駅に来ても二人の姿が見えない。
(何処に行ったんだろう?) 気にはなるけどほっといて俺も電車に、、、。
翌日、香澄から聞いた話では2番ホームから出て本屋に寄ってたんだってさ。 まったくしょうがねえなあ。
行くぞって急かしておいてこれなんだもんなあ。 お嬢様には付き合えないぜ。
「今日も3時間目は弘明君の時間ね。」 「何だいそりゃ?」
「す、う、が、く。」 「ブ、笑わせるなよ。」
「なあに。 昨日だって赤くなってたくせに。」 「ギク、、、。」
「おらおら、ド直球だぜ。 なあ、弘明。」 「、、、。」
こんな連中は無視してさっさと理科室へ。 科学の天才がお待ちだからなあ。
理科室に入ると里美たちが何か話してる。 (何を話してるんだろう?)
聞き耳を立てていると登也が耳を塞いできた。 (嫌な連中だぜ。 まったく。)
おかげで授業に集中できないままに終わっちまった。 次は数学だ。
美和はいつものように澄ました顔で教室に入ってきた。 そしていつものように教科書を開いた。
「今日は二次関数をやります。 進学組の皆さんは教科書の問題を解いてみてください。」 笑顔が可愛い女だな。
俺のほうには振り向かないことは分かってるからノートにペン画を書いていると、、、。 ゴン!
後ろから教科書の門で殴ってきたやつが居る。 「いてえ!」
その瞬間、みんなの視線が俺に集まってきた。 「授業中に何を書いてるのよ?」
香澄も面倒くさそうな顔で俺を見ているが、、、。 美和はそんなことにはお構いなしで進学組のノートを覗いている。
「ここは違うんじゃないかなあ?」 「え?」
「これ、もうちょっと考えてみて。」 真由里も教科書を見返しながら頭を捻っている。
他の連中は俺が何を書いているのか想像しながら盛り上がっている。 (やりにくい連中だぜ まったく。)
結局、今日も美和が俺に振り向くことは無いまま授業は終わった。 「弘明君 可哀そうですねえ。 高橋先生に声すら掛けてもらえないなんて、、、。」
「関係ねえよ。 卒業したら会うことも無いんだから。」 「まあ、強がってらっしゃるのねえ? いつまで耐えられるかなあ?」
「お前も俺のことより自分の進路を心配したほうがいいんじゃないのか?」 「俺は実家を手伝うからいいの。 心配しなきゃいけないのは弘明君のほうではないんですかな?」
「随分と挑戦的だなあ。」 「いいんだよ。 うちは商売をやってるんだから。」
「商売ねえ。」 俺はチラリと香澄を見た。
「何よ? うちが魚屋だからってジロジロ見ないでよ。」 「え? 香澄んちって魚屋だったの?」
「今頃気付いた? 佐藤君。」 「うん。」
「みんな知ってるけど、、、。」 「えーーーーー?」
何とも言えない雰囲気の中で昼休みを迎えた。 俺はさっさと弁当を食べると図書館へ飛んでいった。
奥のほうで本を読んでいると司書室から笑い声が聞こえる。 司書の水谷真紀が居ることは分かるが、もう一人は誰だろう?
「美和ちゃんさあ図書館によく籠ってたよね? 何を読んでたの?」 「伝記ですよ。 伝記。」
「ゲ、美和じゃねえか。」 本を読みながら俺はドキッとしてしまった。
それからの俺はドキドキしまくりで落ち着かない。 本を探しながら棚で頭を打ったり椅子に躓いたり、、、。 (何やってんだろうなあ、、、まったく。)
何とか新しい本を見付けて読んでいると二人が図書館に入ってきた。 (やべえなあ、、、落ち着いて読めねえじゃないか。)
悟られないように本に隠れながら読んでいると美和が向かいの椅子に座った。 何か本を持ってきたらしい。
静かな静かな時間が流れている。 校内放送が聞こえる。
「保健委員会をやります。 保健室に集まってください。」 (何だ、保健委員会か。)
ホッとした顔でページを捲っていると(あれ?)と思った。 mtってイニシャルが入っている。
(mt? 美和 高橋?) チラッと美和を覗いてみると目が合ってしまったからさらにびっくり。
「私が前に借りていた本を読んでるのね?」 「そうなんすか?」
「その本は面白いからやっちゃいけないんだけどイニシャルを入れちゃったの。」 「だからか、、、。」
「びっくりしたでしょ?」 「びっくりし過ぎた。」
「私もね、教師になってこの学校に戻ってくるとは思わなかったのよ。」 「ってことは?」
「もう少しランクの高い高校に行きたかったな。」 (何だ、こいつも結局は頭がいい部類か。)
「でもね、私の知り合いの息子さんが通ってるって分かったからすごく楽しみよ。」 「そうっすか。」
俺は冷めた目で美和を見詰めてから本を戻して図書館を出ていった。
昼休みが終わると教室は掃除でバタバタしている。 香澄たちも当番を決めて走り回っている。
「弘明君はもたもたしないで図書館の掃除に行ってきなさい。」 律子がモップを振り回している。 それに追い立てられるように俺は図書館に戻ってきた。
「あらあら戻ってきたの?」 「そうなんっす。 図書館の掃除当番だったらしくて、、、。」
「私も今週は図書館の掃除をするの。 一緒にやりましょう。」 (ゲ、美和も一緒か。)
「なあに? 驚いた?」 「いえ、その、別に。」
そこへ水谷さんが入ってきた。 「おやおや、弘明君も掃除当番?」
「そうっす。」 「美和ちゃん 口説いたらダメだからね。」
「何で教師を口説くんだよ?」 「今の生徒は手が早いからねえ。」
「そうなんですか?」 「美和ちゃんも気を付けるんだよ。 弘明君みたいな生徒にはね。」
床をモップで磨きながら美和はチラッチラッと俺を見ているみたい。 変に緊張するじゃないかよ。
「机は弘明君に拭いてもらおうかな。」 「はーーーーい。」
(でもさあ、このままで一週間続くんだろう? 耐えられるかな?) 余計なことを考えていたらズボンを濡らしてしまった。
「やっちまったあ。」 その声に飛んできたのは水谷さんだった。
「ったくもう、余計なことばかり考えてるからそうなるの。 タオルあげるから拭きなさい。」 眉が逆への字になってる。 おっかねえおっかねえ。
そんなわけで何をやってもどっかでポカをやらかす俺なんですわ。 完璧に病気だね。
その日の放課後、昇降口を出たら美和が歩いていた。 「おーらおーら、弘明君の彼女が歩いてるぞーーーー。」
「バカ。 大きな声で言うなって。」 「いいじゃねえか。 彼女間違い無しなんだから。」
うちのクラスの問題児たちが騒いでいる。 俺は歩いている美和をじっと見詰めていた。
(もっとランクの高い高校に行きたかったのよ。) あの言葉がどうも忘れられなくて、、、。
「何ボーっとしてるの? 行くわよ。」 不意に香澄の大きな声が聞こえた。
「アグ、、、。 脅かすなよ。」 「ボーっとしてるから悪いの。 行くわよ。」
「弘明君 置いて行っちゃうよーーーーー。」って香澄の声が聞こえた。 「じゃあ行くわ。」
話を終わらせて俺も外へ出る。 雨でも降りそうな雲行きだなあ。
「ねえねえ、高橋先生の何処を見てたの?」 「ギク、、、。」
不意に香澄が聞いてきた。 「どっこも見てませんけど、、、。」
「あの驚きようは何処か見てたのよねえ? そうでしょう? 弘明くーーーん?」 「嫌な聞き方するなあ。」
「だって彼女としては気になるんだもん。」 「お前が彼女だって? 1万年早いわ。」
「ひどーーーい。 小学生の頃から好きだったのにーーーーーー。」 香澄が拗ねた声で泣き真似を始める。
「可愛くないぞ。 泣いたって。」 「ひどーいひどーい。」
「香澄ちゃん あんなのほっときましょうよ。」 律子が俺を睨んでくる。
「嫌なやつらだなあ。 連合軍か。」 「そうよ。 あたしたちは一進一退なの。」
「は? それを言うなら一心同体だろう? バカ。」 「またまたレディーをバカだって。」
「お前の何処がレディーなんだよ? 自意識過剰だってば。」 「いいからいいから行きましょう。 香澄ちゃん。」
苛立った律子が香澄をかばうように先へ歩いて行った。 駅に来ても二人の姿が見えない。
(何処に行ったんだろう?) 気にはなるけどほっといて俺も電車に、、、。
翌日、香澄から聞いた話では2番ホームから出て本屋に寄ってたんだってさ。 まったくしょうがねえなあ。
行くぞって急かしておいてこれなんだもんなあ。 お嬢様には付き合えないぜ。
「今日も3時間目は弘明君の時間ね。」 「何だいそりゃ?」
「す、う、が、く。」 「ブ、笑わせるなよ。」
「なあに。 昨日だって赤くなってたくせに。」 「ギク、、、。」
「おらおら、ド直球だぜ。 なあ、弘明。」 「、、、。」
こんな連中は無視してさっさと理科室へ。 科学の天才がお待ちだからなあ。
理科室に入ると里美たちが何か話してる。 (何を話してるんだろう?)
聞き耳を立てていると登也が耳を塞いできた。 (嫌な連中だぜ。 まったく。)
おかげで授業に集中できないままに終わっちまった。 次は数学だ。
美和はいつものように澄ました顔で教室に入ってきた。 そしていつものように教科書を開いた。
「今日は二次関数をやります。 進学組の皆さんは教科書の問題を解いてみてください。」 笑顔が可愛い女だな。
俺のほうには振り向かないことは分かってるからノートにペン画を書いていると、、、。 ゴン!
後ろから教科書の門で殴ってきたやつが居る。 「いてえ!」
その瞬間、みんなの視線が俺に集まってきた。 「授業中に何を書いてるのよ?」
香澄も面倒くさそうな顔で俺を見ているが、、、。 美和はそんなことにはお構いなしで進学組のノートを覗いている。
「ここは違うんじゃないかなあ?」 「え?」
「これ、もうちょっと考えてみて。」 真由里も教科書を見返しながら頭を捻っている。
他の連中は俺が何を書いているのか想像しながら盛り上がっている。 (やりにくい連中だぜ まったく。)
結局、今日も美和が俺に振り向くことは無いまま授業は終わった。 「弘明君 可哀そうですねえ。 高橋先生に声すら掛けてもらえないなんて、、、。」
「関係ねえよ。 卒業したら会うことも無いんだから。」 「まあ、強がってらっしゃるのねえ? いつまで耐えられるかなあ?」
「お前も俺のことより自分の進路を心配したほうがいいんじゃないのか?」 「俺は実家を手伝うからいいの。 心配しなきゃいけないのは弘明君のほうではないんですかな?」
「随分と挑戦的だなあ。」 「いいんだよ。 うちは商売をやってるんだから。」
「商売ねえ。」 俺はチラリと香澄を見た。
「何よ? うちが魚屋だからってジロジロ見ないでよ。」 「え? 香澄んちって魚屋だったの?」
「今頃気付いた? 佐藤君。」 「うん。」
「みんな知ってるけど、、、。」 「えーーーーー?」
何とも言えない雰囲気の中で昼休みを迎えた。 俺はさっさと弁当を食べると図書館へ飛んでいった。
奥のほうで本を読んでいると司書室から笑い声が聞こえる。 司書の水谷真紀が居ることは分かるが、もう一人は誰だろう?
「美和ちゃんさあ図書館によく籠ってたよね? 何を読んでたの?」 「伝記ですよ。 伝記。」
「ゲ、美和じゃねえか。」 本を読みながら俺はドキッとしてしまった。
それからの俺はドキドキしまくりで落ち着かない。 本を探しながら棚で頭を打ったり椅子に躓いたり、、、。 (何やってんだろうなあ、、、まったく。)
何とか新しい本を見付けて読んでいると二人が図書館に入ってきた。 (やべえなあ、、、落ち着いて読めねえじゃないか。)
悟られないように本に隠れながら読んでいると美和が向かいの椅子に座った。 何か本を持ってきたらしい。
静かな静かな時間が流れている。 校内放送が聞こえる。
「保健委員会をやります。 保健室に集まってください。」 (何だ、保健委員会か。)
ホッとした顔でページを捲っていると(あれ?)と思った。 mtってイニシャルが入っている。
(mt? 美和 高橋?) チラッと美和を覗いてみると目が合ってしまったからさらにびっくり。
「私が前に借りていた本を読んでるのね?」 「そうなんすか?」
「その本は面白いからやっちゃいけないんだけどイニシャルを入れちゃったの。」 「だからか、、、。」
「びっくりしたでしょ?」 「びっくりし過ぎた。」
「私もね、教師になってこの学校に戻ってくるとは思わなかったのよ。」 「ってことは?」
「もう少しランクの高い高校に行きたかったな。」 (何だ、こいつも結局は頭がいい部類か。)
「でもね、私の知り合いの息子さんが通ってるって分かったからすごく楽しみよ。」 「そうっすか。」
俺は冷めた目で美和を見詰めてから本を戻して図書館を出ていった。
昼休みが終わると教室は掃除でバタバタしている。 香澄たちも当番を決めて走り回っている。
「弘明君はもたもたしないで図書館の掃除に行ってきなさい。」 律子がモップを振り回している。 それに追い立てられるように俺は図書館に戻ってきた。
「あらあら戻ってきたの?」 「そうなんっす。 図書館の掃除当番だったらしくて、、、。」
「私も今週は図書館の掃除をするの。 一緒にやりましょう。」 (ゲ、美和も一緒か。)
「なあに? 驚いた?」 「いえ、その、別に。」
そこへ水谷さんが入ってきた。 「おやおや、弘明君も掃除当番?」
「そうっす。」 「美和ちゃん 口説いたらダメだからね。」
「何で教師を口説くんだよ?」 「今の生徒は手が早いからねえ。」
「そうなんですか?」 「美和ちゃんも気を付けるんだよ。 弘明君みたいな生徒にはね。」
床をモップで磨きながら美和はチラッチラッと俺を見ているみたい。 変に緊張するじゃないかよ。
「机は弘明君に拭いてもらおうかな。」 「はーーーーい。」
(でもさあ、このままで一週間続くんだろう? 耐えられるかな?) 余計なことを考えていたらズボンを濡らしてしまった。
「やっちまったあ。」 その声に飛んできたのは水谷さんだった。
「ったくもう、余計なことばかり考えてるからそうなるの。 タオルあげるから拭きなさい。」 眉が逆への字になってる。 おっかねえおっかねえ。
そんなわけで何をやってもどっかでポカをやらかす俺なんですわ。 完璧に病気だね。
その日の放課後、昇降口を出たら美和が歩いていた。 「おーらおーら、弘明君の彼女が歩いてるぞーーーー。」
「バカ。 大きな声で言うなって。」 「いいじゃねえか。 彼女間違い無しなんだから。」
うちのクラスの問題児たちが騒いでいる。 俺は歩いている美和をじっと見詰めていた。
(もっとランクの高い高校に行きたかったのよ。) あの言葉がどうも忘れられなくて、、、。
「何ボーっとしてるの? 行くわよ。」 不意に香澄の大きな声が聞こえた。
「アグ、、、。 脅かすなよ。」 「ボーっとしてるから悪いの。 行くわよ。」



