心の声を聞きたい王子様に応える私は変態ですか?


 ノックと共に案内の者と彼女が現れた。

「ユリア・マスカレド様がお越しになりました」
「どうぞ、お入りください」
「失礼いたします。……!」

 王子以外に人がいるとは思わなかったでしょうね。

 蜂蜜色の髪に愛らしい紫の瞳。少し幼い雰囲気もあるけれど、調べたところ貴族学校での成績も優秀。抜きん出ているわけではないものの品行方正なタイプですね。

「私はセルバンティス様の執事でございます。私には心の声は伝わってきません。適性の判断のため私から質問させていただく場合もございます。ご了承ください」
「あ……はい、分かりました」

 適性という言葉が頭を駆け巡っているのかもしれません。

 私のご主人様であるセルバンティス様は、深緑の髪に黄金色の瞳をした精悍な雰囲気の王子です。声には色気があり筋肉も逞しい。さながら騎士のよう。

 ――中味は爽やかさの欠片もないですけどね。

 夜会の場で、初々しく壁の花になっていたユリア様にセルバンティス様はご興味を持たれました。彼女は子爵家の娘で貴族学校二年生。おおよそ家から、学校でいい男と知り合えないなら夜会にも出て目ぼしい男を引っかけてこいと言われたのだろうと。貴族学校に入るまでは領地の屋敷で暮らしていたようで、社交には不慣れ。絶望的な顔をしていたのが気に入ったらしいです。

 すぐさま彼女の普段の行動範囲を洗い、交遊関係を洗い、王都の行きつけの店を洗い、護衛用の付き人とも私から話をつけ、「少しガラの悪い男に絡まれたところをセルバンティス様がお助けになる(付き人は離れたところにいたので遅れた)」という偶然まで演出されました。

 彼女のよく行く店の側で偶然会うことも繰り返し、行きつけの店の場所が近いようだという話で盛り上がるなんてことも何度か繰り返されました。全て計画通りです。

 そんな中でセルバンティス様は彼女に想いを募らせユリア様からの想いも自分にあると確信なされたところで――禁忌、無魔を召喚して契約するという道を外れた行為をなされました。

 彼女が口にした砂糖菓子は、本当にただの砂糖菓子でなんの効力もない。

 実際には三年間のセルバンティス様の寿命を削り三時間、夢魔の力を好きに使っている。部屋の中の人間を現実そっくりの夢の中に引きずり込み、特定の相手――すなわちユリア様のお心だけを覗かれている。実際の彼女は夢遊病のように歩き同じ場所に座っていることでしょう。

 わずかにいた他の令嬢は五分ほど相手をしてすぐに帰らせました。誰もが皆、絶望的な顔をしていたのが印象的でしたね。「嫌いな方はいますか」で想像された人と理由を当てるだけで、人は恐怖を覚えるもの。その恐怖すら言い当てられれば引きますよね。