「それにね」
セルジュさまが微笑みながら本の表紙を私にみせる。
「これは君が生んだ〝命〟──君自身が大切にしなくて、誰がこの物語を守るの?」
その言葉に息が詰まった。
本を捨てた時の自分の気持ち。
あれは本当はただの逃げだったんだと思い知らされた。
「もっと自分の中をのぞいてごらん。物語は君の中に眠っているのだから」
失敗した苦い経験や思い出。
楽しかったことや学んだこと。
そのすべてが糧となって、私からあらたな命が生みだされる。
そうセルジュさまは優しく説いてくれた。
「だからオレのはじめて稼いだお金で君にプレゼントするよ」
セルジュさまは本を私の胸にそっと押し付ける。
私はぎゅっとその本を抱きしめた。
「それが君自身の物語のはじまり一歩だよ」



