これかぁ~。
セルジュさまの秘策って。
頭を包帯でぐるぐる巻きにした姿。
片目を眼帯をしている。
もはや誰なのかさっぱり。
私もマスクと大きめのサングラスで変装する。
これだけで外を出歩いても、バレていない。
ショッピングしようと大きな街にやってきた。
気が沈んでいるので、あまり気乗りしていない。
なにを買うのかと思っていたら、書店に向かった。
「これか!」
セルジュさまが手に取ったのは「おばあちゃんの優しい台所」。
彼は静かに本をひらいて読みはじめた。
あたらしい物語が書けない自分がいやだった。
過去の作品にこだわっていては新しいものが生み出せない。
だから本を捨てた。
でも、今は電子でも読める時代。
なのでわざわざ紙の本を買う必要もないのに。
「すてきな物語だね」
「でもこれは……」
「自分で生んだものを見捨てたらかわいそうだよ?」
「──っ!?」
そんなこと言われなくても、わかっている。
本なんていつだって買えるのだから。
セルジュさまは本を閉じて、やさしい笑みを浮かべた。
「紙の本にはね、特別な力が宿っていると思うんだ。」
「……力?」
私が問い返すと、彼はゆっくりうなずいた。
「うん。この本もただの文字じゃない。ページをめくるたびに物語が広がる。それは君のおばあちゃんとの思い出であり、心を込めて作られた世界だからだよ」
彼は指先で表紙をそっとなぞった。
「……でも、今は電子書籍の時代だし、時代遅れなんじゃ」
私はそう言って目をそらした。
セルジュさまは静かに首を振った。
「たしかに紙の本は便利じゃないかもしれない。でもね、誰かが大切に持ち続けてくれるものだよ。たとえば、何年も経ったあとに、ふと本棚から引っ張り出されてまた読まれる。そうやって、君の想い出と言葉がずっと生き続けるんだ。」
彼の言葉に胸がぎゅっと熱くなった。



