「それはなにをしている?」
セルジュさまが家にきてから家事が楽になった。
掃除、洗濯、料理などなんでもやってくれる。
なんなら料理はキュッキュパッドをみて私よりうまくなったかもしれん。
すごい刺激を受けて、ようやく重くなった筆を執るようになった。
私、南海祭は大学生の頃に書いたきまぐれで書いた小説が受賞した。
とんとん拍子に書籍化され、ベストセラーを叩きだしてしまった。
それがそもそもの過ちだった。
勝手に自分に才能があると勘違いしてしまった。
なぜ自分の物語が多くの人が読んでくれたのかわからなかった。
亡くなった祖母との思い出を綴ったほぼノンフィクションのドキュメンタリー作品。
自分にとって、大切な思い出の日記のようなもの。
今、思えばそれがリアルだったから読者に刺さったと知っている。
だから取り返しがつかない。
祖母との思い出はたくさんある訳ではない。
そのため、フィクション気味に書いた続編は見向きもされなかった。
あせって違う物語も書いてみたが、結果はさっぱりだった。
「物語を作ってる、のかな?」
「それは伝記とか英雄譚のようなもの?」
あたらしい世界の創造。
魅力のある人物の生成。
個性あるストーリーの枠組み。
小説家として、当たり前なことだが、それは誰でも書けるわけではない。
薄っぺらい世界。
どこかの作品からコピーしてきたようなキャラ。
ありきたりなストーリー。
玉石混淆なんてことばがある。
宝石とただの石が混ざっているっていう意味。
宝石と石が混じっていると、なかなか見分けがつかない。
小説の世界も一緒だ。
ちなみに今の私はただの石。
世界が練り切れてない。
キャラの個性が薄味。
ストーリーに現実味がない。
だから磨いてキラキラと光る宝石になりたい。
いろいろとあがき続けて、小説投稿サイトに刺激をもとめた。
そこで出会ったのが「辺境領主のご落胤」。
頭を鈍器で殴られたような衝撃をうけた。
実在するかと錯覚してしまう世界観。
圧倒的な存在感のあるキャラ。
予想をはるかに裏切る展開。
その物語から憧れの主人公が飛び出してきた。
私の目の前にはまぎれもない本の中のひとがいる。
だから、私はセルジュさまにこう返事をした。
「いいえ、自分だけの物語を作ってるんです」



