向日葵の園

「んー。ちょっとうるさいかもね」

憂さんの大きい手のひらが私の口元を覆う。

「ンーッ!」

ジタバタと駄々っ子みたいに手足をバタつかせてみても
憂さんの体はやっぱりビクともしない。

ツン、と首筋に細い物を当てられている感覚。
予防接種の時の注射みたいに痛くない。
針の先だけを当てられているだけのチクッと感。

額から冷たい汗が流れた。

「頼むよ、ヒマワリちゃん。俺はね、きみにはこの薬を打ちたくないんだ」

見開いた目で憂さんを凝視する。
額の汗は冷たいのに身体中が熱くて堪らない。
なのにガタガタと震える四肢が気持ち悪い。

憂さんの首筋には確かに私が刺した針の痕が
ぽつっと小さく赤く残っている。

なのになんで憂さんは平気そうなの。

「静かにするって約束してくれる?」

コクコクと大きく頷いて懇願を示せば、
憂さんはこの場に相応しくない、あの温かい笑顔を浮かべて開放してくれた。

「ゆッ…ゆうさん…ゆうさんっ…」

「あれ、言ったそばから」

「ごめっ…」

「嘘だよ。騒いじゃダメだからね?」

「なんで…平気なんですか…」

「平気って…あぁ、注射のことね。そんなのは簡単なことだよ。いつ反旗を翻されるか分からないのになんの対策もしないわけがないでしょ。自分の体に一番最適な解毒剤くらい研究してるよ」

絶望的だった。

憂さんのことは殺せない。
ここから逃げ出せるかもしれない希望を一つ、打ち砕かれた気がした。

「憂さん…じゃあアレ…アレはっ!」

カプセル型の、ぽてっと細長いドームを震える指でさす。
憂さんは「あぁ」と穏やかな声で言って、
すごく当たり前のことみたいに「日和だよ」って微笑んだ。