アンバーの瞳が期待できらきらと輝き、罪悪感が一気に高まる。
細く息を吐き出し、ミーアは口元を引き締めた。
「エヴェリーナ様のお気持ちは嬉しいです。ただ、やはり求婚はお受けできません」
「まぁ、なぜですの? わたくしに何の問題が?」
さすが、聞いていたとおりだ。折れることを知らない人の物言いだ。
ミーアは目元をそっと伏せ、懺悔をするように両手を組んだ。ちなみにこれは兄がよくする癖の一つだ。
「実は……ずっと言えずにいたのですが、僕には他に恋い慕う人がいるのです」
「それは……わたくしのことではないの?」
「道ならぬ恋なのです。どうか、そっとしておいてくださいませんか?」
「まぁ、道ならぬ恋……ですって? お相手は一体……」
衝撃のあまり、エヴェリーナが頬にあてる指先が小刻みに震えている。
(相手はいないんだけど……どうしたものかしら)
実在しない相手の正体を明かすことはできない。こうなったら、のらりくらりと躱すしかない。
困ったミーアは部屋を見渡し、白い軍服を着たアルヴィに目を留める。だが、その視線の先を追っていたのだろう。ガタンッという音ともに、エヴェリーナが椅子から立ち上がった。
反射的にマズい、と思ったときには、彼女はすでに結論を出していた。
「もしかして、相手はアルヴィ……!? そうなのね!」
「…………」
「そもそも、女のわたくしでは、ノエル様の心を射止めることができなかったのね。わたくし、わたくし……うっ、ううう」
大粒の涙をためて、エヴェリーナは悲しげに眉を寄せた。
けれど、泣きたいのはこちらのほうだ。
なぜ、よりによって男が好きだという話になっているのか。完全に自分のキャパを超えている。さすがに兄に申し訳が立たない。
(だけど……エヴェリーナ様の涙はきれいね。本当にお兄様が好きだったんだわ……)
王女の瞳から、ひたひたと涙のしずくが頬を伝い落ちる。
その泣き顔は思わず見惚れてしまうような美しさがあり、胸が締めつけられた。
今さら、ひどい男になってしまった事実は変えられない。だが、純真な女の子を悲しい表情のままにしておくこともできない。
ミーアは彼女の背後に回り込み、華奢な肩をなだめるように両手を置く。糸が切れたように、すとん、とエヴェリーナが椅子に座った。ミーアは彼女の足元に跪き、絹のハンカチを差し出した。
「泣かないでください。エヴェリーナ様。わ……僕はあなたを泣かせたいわけではないのです。あなたに好意を寄せられて喜ばない男はおりません」
「でも……だって……わたくしは。あなたに嫌われるようなことをしました。好きな殿方がいるのに迫って……さぞ迷惑だったことでしょう」
「それでも、王女殿下に慕われることは名誉なことでした。僕とあなたの道は交わらないですが、あなたの幸せを祈ってもよいでしょうか?」
兄から借りたハンカチを握りしめ、エヴェリーナは目を丸くする。
「姉上。ぼくも祈らせてください。姉上の幸せを」
ジェラルドも便乗し、部屋中の視線がエヴェリーナに集まる。
気高き王女は涙を指先で拭い取り、そっと微笑んだ。
細く息を吐き出し、ミーアは口元を引き締めた。
「エヴェリーナ様のお気持ちは嬉しいです。ただ、やはり求婚はお受けできません」
「まぁ、なぜですの? わたくしに何の問題が?」
さすが、聞いていたとおりだ。折れることを知らない人の物言いだ。
ミーアは目元をそっと伏せ、懺悔をするように両手を組んだ。ちなみにこれは兄がよくする癖の一つだ。
「実は……ずっと言えずにいたのですが、僕には他に恋い慕う人がいるのです」
「それは……わたくしのことではないの?」
「道ならぬ恋なのです。どうか、そっとしておいてくださいませんか?」
「まぁ、道ならぬ恋……ですって? お相手は一体……」
衝撃のあまり、エヴェリーナが頬にあてる指先が小刻みに震えている。
(相手はいないんだけど……どうしたものかしら)
実在しない相手の正体を明かすことはできない。こうなったら、のらりくらりと躱すしかない。
困ったミーアは部屋を見渡し、白い軍服を着たアルヴィに目を留める。だが、その視線の先を追っていたのだろう。ガタンッという音ともに、エヴェリーナが椅子から立ち上がった。
反射的にマズい、と思ったときには、彼女はすでに結論を出していた。
「もしかして、相手はアルヴィ……!? そうなのね!」
「…………」
「そもそも、女のわたくしでは、ノエル様の心を射止めることができなかったのね。わたくし、わたくし……うっ、ううう」
大粒の涙をためて、エヴェリーナは悲しげに眉を寄せた。
けれど、泣きたいのはこちらのほうだ。
なぜ、よりによって男が好きだという話になっているのか。完全に自分のキャパを超えている。さすがに兄に申し訳が立たない。
(だけど……エヴェリーナ様の涙はきれいね。本当にお兄様が好きだったんだわ……)
王女の瞳から、ひたひたと涙のしずくが頬を伝い落ちる。
その泣き顔は思わず見惚れてしまうような美しさがあり、胸が締めつけられた。
今さら、ひどい男になってしまった事実は変えられない。だが、純真な女の子を悲しい表情のままにしておくこともできない。
ミーアは彼女の背後に回り込み、華奢な肩をなだめるように両手を置く。糸が切れたように、すとん、とエヴェリーナが椅子に座った。ミーアは彼女の足元に跪き、絹のハンカチを差し出した。
「泣かないでください。エヴェリーナ様。わ……僕はあなたを泣かせたいわけではないのです。あなたに好意を寄せられて喜ばない男はおりません」
「でも……だって……わたくしは。あなたに嫌われるようなことをしました。好きな殿方がいるのに迫って……さぞ迷惑だったことでしょう」
「それでも、王女殿下に慕われることは名誉なことでした。僕とあなたの道は交わらないですが、あなたの幸せを祈ってもよいでしょうか?」
兄から借りたハンカチを握りしめ、エヴェリーナは目を丸くする。
「姉上。ぼくも祈らせてください。姉上の幸せを」
ジェラルドも便乗し、部屋中の視線がエヴェリーナに集まる。
気高き王女は涙を指先で拭い取り、そっと微笑んだ。



