男装令嬢は双子の兄のために縁談を蹴りに行きます

 驚きをどうにかやり過ごし、とにかく否定しなければ、と息を吸い込んだところで一歩出遅れた。エヴェリーナが前に進み出て、弟を歓迎する。

「よく来てくれたわ、ジェラルド。今日は隣国から取り寄せたお菓子があるのよ」
「わぁ、楽しみです」

 エヴェリーナとジェラルドは、二人並ぶとよく似ている。金茶色の髪にアンバーの瞳は王族共通のもので、やや垂れ目な目元は優しげだ。
 ミーアは花が飾られたテーブルに誘導され、エヴェリーナの斜め向かいの席に座る。ジェラルドは姉の横の席だ。壁際で皆の様子を見守っているアルヴィを見やると、ふわりと微笑が返ってくる。

(なんだか見張られているようで落ち着かないわね……)

 ケーキスタンドに載った軽食を各自のお皿に取り分け、和やかな雰囲気でお茶会が始まる。素直なジェラルドは姉の解説に耳を傾け、一口大のチョコレートに目を輝かせた。

「これが外国のお菓子ですか……まるで宝石みたいですね」
「ええ、そうでしょう? ノエル様にも喜んでいただきたくて。さあ、どうぞ召し上がって」
「……いただきます」

 円形にお花のデコレーションがされたチョコレートを口に頬張る。ほろ苦いチョコレートが口の中で溶け、中に入っていたピスタチオがいいアクセントになっている。

「これは……美味しいですね。食べるのがもったいないくらい」
「でしょう? わたくしも初めはびっくりしたわ」
「姉上、これは大人の味がします。ですが、口の中でとろける瞬間が楽しいです」
「ふふ、喜んでもらえてよかったわ」

 姉弟の平和な会話を聞きながら、ミーアは話すタイミングを計りかねていた。

(まさか、弟王子にまで義兄上扱いされているなんて……。お兄様が行っていたお茶会はジェラルド様もいつも一緒だったのかしら?)

 今日は縁談を蹴りに来たのだ。
 王女に泣かれる可能性は高いと思って腹を決めていたが、弟王子までの扱いは想定していない。自分の言葉でお茶会がぶち壊しになる展開を想像して、気鬱になる。

「そういえば、ノエル様。先ほどは話が途中でしたわね。わたくしに何か伝えたいことがあるとか。……はっ、とうとう求婚のお返事を聞かせてくれるのかしら!?」