男装令嬢は双子の兄のために縁談を蹴りに行きます

 白雪の間には、第一王女と側仕えのメイドが揃って待っていた。
 小柄な王女は腰までまっすぐに伸びた髪を揺らし、駆け寄ってくる。ふと、耳元から編み込まれた後ろ髪に挿された華やかな簪|《かんざし》が目に留まる。花びらをいくつも重ねた簪は、小さな宝石が連なって飾られ、王女が身じろぎするたび軽やかに揺れた。

「ノエル様、少し見ない間にやつれられたようですわ……。熱がなかなか下がらず、今は記憶もあいまいだとか……。まだ安静になさっていたほうがよろしいのでは?」

 ミーアは王女の前で膝をつき、見上げるようにして視線を合わす。

「エヴェリーナ様、ご心配には及びません。それに、本日はあなたにどうしてもお伝えしたいことがあって参りました」
「まぁ……なんですの?」
「求婚の件ですが……」

 早速本題に入ろうとしたところで、来客用のベルが鳴る。メイドが取り次ぎ、ジェラルドとアルヴィが姿を見せる。

「エヴェリーナ姉上、本日はお招きありがとうございます。ノエル義兄上もお元気そうで安心いたしました」

 ほっとした様子で笑顔を見せる若き王子に、ミーアの思考は停止した。

(義兄上。あにうえ。……あにうえ!?)