「…そう言うの、俺に話していいの?」
「どうでもいいもの。トキがここに残るなら寧ろ私には好都合。」
するりとトキに絡まるユイ姫の腕。
瞬時にトキはそれを振り払う。
「っ…。」
「無礼は相変わらずね。これくらいで逃げてたんじゃ、結婚生活が思いやられるわよ。」
「じゃあ他を探せば?」
「私はトキがいいの。その生意気な顔が歪むのをずっと見ていたいの。」
最早性格が悪いのはどちらか分からない。
たぶん二人とも悪い。だけど、胸糞が悪いのはユイ姫さんの方だな。
「…それが違うんだよ。リンは、俺が笑うのが嬉しいって笑ってくれる子だから。」
「そんな子供みたいな女、底が知れてるわね。」
「リンの底なんて誰にも知ることなんか出来ないよ。たぶん、父さんも…シオンでさえ、ね。」
「馬鹿ね。私のシオンは問題ないわ。」
先程周囲を見渡した時に、おーちゃんの姿は既に隣にないのを見て。
トキは時間稼ぎのような言い合いを終えようと足を動かす。
「あ、言葉を返して悪いけど。シオンはあんたのじゃない。シオンは昔からたった一人の天使に心奪われてるからね。」
「は…?」
最後に言いたいことだけ言って、トキは城外へ。
ユイ姫さんはその場におーちゃんもいないことに気付いたが、それよりも今はトキの言葉にまた憤怒の如き怒りを抱いている。
「天使…あり得ないわ。シオンは私だけのもの。あの兄弟は、誰にも渡さない。」
幼い頃からこの兄弟を知っているからこそ。
ユイ姫さんにとって、トキの言葉は信用に足るものではないが。それでも憤るものは抑えられない。

